さて、生粋の大和撫子の私は、年明けて日本のお正月を祝うために実家(母のとこ)に兄家族とともに集まった。 兄嫁に「マリちゃん、お琴弾いて」と一年ぶりにやっぱり言われちゃった。スーパーや商店街で必ず正月のたんびに流れてる『六段』しか弾けない私だが、『六段』さえ弾ければこうして喜ばれるわけなのだ。日頃から私を恐れつつ尊敬してくれてるみたいである年上の兄嫁に期待されれば、そりゃ一年間一度も触ってない琴を奥の部屋から引っ張りださないわけにはいかない。 だが、重いお琴を袋からごそごそ出して柱をのろのろと立てて調律しようとしたら、爪が見つからない! 爪がなきゃ『六段』はとても弾けないじゃん! 苦渋の果て、私は平調子の弦を急遽ドレミに律し直し、弦二つだけを指と自分の爪だけで、、、、何かやろうとして、、指腹だとこういう鋭い甘い小音なんだよね、、、、百円玉を(あのブライアン・メイのみたく)ピックにしようとしたけど、とても扱えず、、、、ふと、、ドン、ドン、パッ。指で無造作にシンプルに弾いてみた。弦二つを。えっ? ドンドンパ? これは、つまり、、、『六段』的でもありつつ、、、、、あの“ドンドンパッ”なら、、と思いついちゃったのだった! そう、QUEEN の We Will Rock You をやることにした!! 単音二つ。何て楽な伴奏なの。おそらく世界初、私が琴でドンドンパッの超カンタン伴奏つけて兄嫁に「ラララララーララ」と(恥ずかしがるのを脅して)スキャットで歌わせることにし、コーラス部分( We will we will rock you)は兄嫁・兄・私で声を合わせた。酔っぱらってるから気持ちも息も合った。 何とかそういうのが成功しそうだったので、甥(兄夫婦の子・五才)が舐めてた縦笛を兄が取り上げて、ラストのギターソロフレーズは兄が吹くよう私が命じた。甥っ子はタンバリン係。 兄がうまく吹けるまでリハを繰り返したところに、雑用から戻った母(えくぼのない乙羽信子)登場。元ロジャー・テイラー熱狂ファンの母が「ラララララーララはないでしょ」と歌詞省略に苦言を呈した。 で、英語をちゃんとみんなに歌わせようということで母は書架室からわりとすばやく古いLPレコード『世界に捧ぐ』と『グレイテストヒッツ日本盤』を持ってきて、中に入ってた歌詞の紙を私たちの前に並べた。文字が小さすぎるので、母は大きなカタカナで白紙に大書した。そ、そんなに好きなの? その間、兄はソロ笛の練習に余念なかった。 さあ、父の遺影のあるリビングでそのまま一族五人による新年早々の We Will Rock You 合奏大合唱が始まったのだった。