あまのかぐや

レッド・ファミリーのあまのかぐやのネタバレレビュー・内容・結末

レッド・ファミリー(2013年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

予告を見ただけでハードそうで、ちょっと体調整えて出直しますと棚に戻してしまった「嘆きのピエタ」のキム・ギドク監督ということで構えてみましたが、あら?肩透かし?
映画っぽくない、かるーい感じの画面はちょっと昔のホームドラマぽい撮り方なのかな。スパイものって大好物のジャンルなんだけど、ちょっと毛色が違うな、というのが序盤の印象。

遠くて近い、近くて遠い隣の国。そのまた隣にはもっと未知で危険な国が隣接しているのだな。誇張されたかのような展開の中に、そのリアルな現実をヒシヒシと感じました。しかも考えてみれば同じ言語をつかって喋ってるんですよね、彼ら。

あらすじはこんな感じ。
よくあるような平凡でつつましい、穏やかで幸せそうな四人家族。
お父さんと息子と嫁、そして10代の孫娘。
しかしその実態は祖国からの命を受けて韓国に潜入した北朝鮮の工作員チームだったのです!名前が「サザンカ班」ってなんだかかわいらしいんですが、で一番地位が高い班長が見た目嫋やかで美人な嫁(なかやまみぽりん似)。
外ではにこやかな嫁で妻でママの顔なんだけど、一歩家に入り玄関のドアを閉めれば・・・。「そこに座れ」「さっきのあの態度はなんだ!」(マジビンタ)。女王さま、もっとブってください、とかそんな空気すらありません。北朝鮮の諜報員の本気を見せるこのギャップにビビります。

一方、隣の家の家族構成は夫婦(この奥さんが磯野貴里子風)とお母さん。奥さんの遠慮のなさに自分の実母かと思ったらなんと夫のお母さんつまりお姑でしたよ。私が言うのもなんだけど、もう少し敬意を払っても・・・そしてもうひとりティーンの息子さんの三人家族。
隣のうちの嫁が、無駄遣いしてサラ金で手をだしたりとか、稼ぎが悪いと夫をなじったりとか。しょっちゅうぎゃーぎゃー喧嘩をしたり、息子クンやおばあちゃんが「もうやめてよぉ」って騒いでる様子が、偽装一家のうちの中まで、手に取るように聞こえてくる。おかあさん、可愛いんだけど、新喜劇ばりにうるさいしゲスっぽいし「ちっ、なんだよ、この女」って思うんだけど、やがてそれが不思議と心地よくなってくる。
こんなに大声で筒抜けなら、工作員一家の会話も聞こえるんじゃないか、と心配になる。こちらは上官と部下たち。国からの命令必須で(終始盗聴されてる)自分らのミッションと祖国に人質にとられているほんとの家族の生死をかけたマジやばい会話だらけなんですもん。

そして隣家の一家を「資本主義の隷属民め」と蔑み、なにかというと一緒に食事しようとか、お料理をもって全員で押しかけてくる一家に腰引けながらも、しだいにその生活や、家族の在り方にあこがれをもつようになってしまう・・・

娘役のミンジが、高校のいじめっ子に囲まれてる隣家の息子チャンスを助けたことからお互い気になる存在になる。2人がほのぼのティーンカップルになりかけな初々しい関係をみせるいっぽう、隣家の上品なおばあちゃんが祖父役のミンショクに惹かれあう。特に色仕掛けというわけではなし、健康を気遣ったり、労わったりと、20年も家族と離れ韓国で諜報活動をしているミンショクにとっては心の癒しになるわけです(しかも彼は仲間に隠していますが癌を患っていて先は長くなさそうです)

北朝鮮の思想にがちがちに凝り固まった4人が、隣家と接するなかで心も思想も緩んでいくのが自然にわかる。コメディチックに見せながら(なんといっても嫁が磯野キリコ
の顔で、キリコの数倍かしましいし)実に丁寧な描き方。

ミンジのお誕生日にごちそうを持って訪問してきた隣家の家族との緊張感溢れる食卓は中盤のヤマ、名シーンかもしれない。北を擁護する発言がついつい出てしまう偽装一家と、疑いつつも「赤っぽいこといわないでよぉ」とわかってんだかわかってないんだか、南の一般的意見として北朝鮮を「あれはあかんよね〜」と言う一家。

そして起承転結の「転」では、夫役のジェホンの、ホントの家族が脱北したとの情報が入る。さらに手柄をたてようと勝手に祖国の裏切り者を暗殺する計画をたてた班長が、間違って二重スパイの重要人物を暗殺してしまう、というちゃんとスパイものらしい展開も用意されているのですが・・・祖父の病状もかなり重そうだし、もう転落の道しか見えない。

お隣さんどうし、敬いあって仲良くしましょうよという、国と国を象徴したコメディかとおもいきや、最期はとてつもない悲劇になるわけで。映画が始まった段階では、まさかこの映画のラストで落涙するとは思わなかった。
序盤の、お隣さんのばかばかしい喧嘩をしつこく見せていたのはすべて壮絶でかなしいラストのためだったのか、と。
国どおしの理解はまだまだ遠いかもしれないけど、それと対象的にもっと身近で小さな共同体、家族っていうものの本質が突きつけられる。醜くいがみあってガチで喧嘩して、でもお互いいたわって、うやまって、それが愛。それがホントの家族。にこにこと作り笑いばかりではなりたたないのですよね。ホントの家族って。

最初にも書いたとおり、かるーい雰囲気ではじまるから油断して「ははは」なんて笑いながら観ているところに、不意打ちを食らわされる。押し付けではなく気づくと巻き込まれていた。怒涛に巻き込まれるがごとくあれよあれよと思う間に、涙腺決壊。
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