あまのかぐや

ウォルト・ディズニーの約束のあまのかぐやのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

邦題は「ウォルトディズニーの約束」です。

確かにウォルトの約束は約束として物語のキーなのですが、やはりここはオリジナルの「セイビングミスターバンクス」。

すべての物語がおわったあとにこのタイトルが浮かび上がる瞬間、涙が滝のように流れ出しました。


ミスターバンクスってだれ?って思ったら、ぜひオリジナルの「メアリーポピンズ(1964)」を観て下さい。特に、この作品を観たあとに「メアリーポピンズ」を観ると、底抜けに楽しい歌のダンスとファンタジー映画が、なんとなんと深みをもって、全く違う映画に見えてくることか。

「メアリーポピンズ」のサントラといえば「スパカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」や「チムチムチェリー」がまず出てきますか、そこまで印象的ではなかった「2ペンスを鳩に」が深く刺さるし、またラストの「凧をあげよう」…この曲のサビのコーラスでは、そんな泣きのシーンじゃないのに涙が出てきます。この曲にここまで泣く日がこようとは。

この作品は、メリーポピンズの原作者「パメラ・トラヴァース」が主人公です。本名は「ヘレン・ゴフ」という彼女が、ペンネームとした「トラヴァース」。トラヴァースって誰?

今まで誰にも言わず封印してたけど、夢のある物語を作り続ける彼女が、心の中の大事な人に誓った約束。気難し屋でこだわり屋で気まぐれな「英国人」のパメラの心の奥にある大事な物語。西海岸の気候や享楽的な空気、ディズニーランドやウォルトの歓待に眉をひそめる彼女が決して他人に触れさせなかった過去の物語。

泣いた泣いた。もう涙が枯れるかと。

1964年の公開された実写ディズニー映画「メアリーポピンズ」の制作背景、シャーマン兄弟の手による数々の挿入歌誕生秘話、そしてプレミア上映会までのドラマも興味深い。

併せていつも不機嫌な原作者パメラ(エマ・トンプソン)の心の動きと、彼女の幼少時の物語。それらの切り替わりも、とても自然でわかりやすく、流れるように真実を解きほぐしていく。そのほぐれた真実が、彼女の心を溶かし、そして「ミスターバンクス」をセイビングするんです。

ずっと口角を下げっぱなしだったパメラが、ウォルトが手を加えた結末の脚本に、そしてシャーマン兄弟の「凧をあげよう」に、頬を緩め足先がステップを踏んだ時。また華やかなプレミア上映のスクリーンを観ながら涙を流すとき。パメラの沈痛な思い出が、暖かく塗り替えられていきます。

そして、彼女と同様、暗い過去を明るく華やかに塗り替えて今ここに存在するウォルト・ディズニーを演じたトム・ハンクス。助演な立ち位置ですが、とても素晴らしい。

ウォルトがパメラに語った幼少期のエピソードから、冷たく厳しかった彼の父を想像させます。

が、もうひとり、娘の夢を愛する父の姿をみせる印象的な登場人物がいます。「アメリカで出会った人のなかで一番信頼できる」とパメラをして言わしめたその人。彼女の意固地を溶かしたきっかけのひとつなんだろうな、と思いました。

さまざまな父親がでてきます。それら一つ一つ、ダメなところ、それでも大きな大きな存在であること。隠さず余さず、丁寧に描かれています。

だからミスターバンクス。
パメラのミスターバンクスは「メアリーポピンズ」によって、みんなの心の父親になりました。

公開時に都内まで見に行ったこの作品。今週末公開される「メリーポピンズリターンズ」を観るために「メリーポピンズ」を観たら「凧をあげよう」のシーンで、またまた泣けてしまい、この作品を再見せねば、と思った次第です。

さてさて「リターンズ」の制作に関しては、あの気難し屋のトラヴァース女史、納得なさっているかな?
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