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ハイ・ライズのneroのレビュー・感想・評価

ハイ・ライズ(2015年製作の映画)
4.5
評価低いみたいだが、これは傑作! なので再レビュー。

J.G.バラード原作による、高層住宅を舞台にした閉鎖社会を描くミステリーというより不条理劇。
原作発表は1975年だが、映画は60年代SFそのものという印象。コンピュータが存在しないSFというのも久しぶり。舞台となる高層マンションの造形も、若干東欧風味もあって素晴らしく、60年代の未来の具現化として納得感がすごい。

車やビデオ、テレビ、カセットレコーダや電話など、すべてが60-70年代のアナログなのに、映像は現代のテクノロジーで撮影されているためだろうか、全体に不思議な不整合感が漂う。21世紀から過去を通って異なる時間線の近未来を覗いている感じだ。
構成も、時間軸を無視したように、シーンは断片的にシャッフルされる。さらに随所で映像と音声とのシンクロも意図的に外され、余計に幻惑されるとともに不安感を煽られる。映像の利点を活かしためまい映画だこれは。


ストーリーを追うことにはあまり意味は無い。一応1975ロンドン郊外という設定だが、実は場所すらも意味は無い。共同体が内包する危険性だったり、ヒエラルキーの暴走だったり、肉体と精神の関係性だったり、いろいろな要素から問題提起しているといっていいだろう(なんたってバラードだもんな) 
完璧であるはずのコミュニティが、微小なトラブル・違和感から、やがてその自重で重力崩壊していくような壊れっぷりは、怖さもあるが目が離せない。
 
全体から受ける印象は【プリズナーNo.6のアナザーサイド】だ。固有名詞を排除したスーパーの商品や、タワーの表現(字幕では「ハイ・ライズ」って名称で表記されるが、原語では単に「the building」だ)も含め、まさにあの”村”そのもの。最上階に住む”建築家”は最高権力者であり、No.2になぞらえることが出来そうだ。 
ついでに言えば、原作では上の階(階級)へ上がるという意味での「ハイ・ライズ」だ。 
待望の”住人”となった医師ラングも、外部に職場がありながら、結局自らタワーにこもってしまい、やがて壊れていく。
最後は”混沌”という新たな”秩序”を得たThe Buildingの姿が描かれる。原作より暴力感を薄められているせいか、ラストは静謐な印象さえあった。

主役のトム・ヒドルストンがバラード世界にどハマり! スゴイ都会的な役者さんだ。アタッシュケースにスーツ姿なんて、それこそ60年代のさいとうたかをが描いていた男のようなカッコよさ! それでいて、無機物に寄り添うようなケモノ感希薄な存在感。壊れていく様まで美しい。 ロキ役なんて受けちゃいけんわぁ。 彼でボンドシリーズが(アクション少なめのヤツ)見たいぞ。

※2017年6月、ロンドン郊外でタワーマンションの大きな火災があった。ほぼスラム化していたらしく、ニュースに接した時、思ったのはこの映画だった。
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