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日本のいちばん長い日のNMのレビュー・感想・評価

日本のいちばん長い日(2015年製作の映画)
3.8
ポツダム宣言受諾の経緯を描く。天皇や首相ももちろん主役だが、陸軍の阿南大将の葛藤と、受諾に反対しクーデターを企てる若い軍人たちの暴走がメイン。

既に日本は相当負けが込み、口にはしないが軍も役人もそれを感じ取っている者は多い。
関東大震災、二度の原爆投下、その上ポツダム宣言受諾の要求と、もう猶予はない。
天皇陛下はじめ和平の道を模索する者たちと、あくまで国民総玉砕さえ辞さない一部の軍人ら、その間に挟まれ葛藤する者たち。
議会は紛糾する。
さらに反乱を企てる者たちも。
日本は終戦を宣言することができるのか……?

戦争映画だが、意外にも首相官邸や省庁、皇居などの、レトロで豪華な内装もともない、常に画面が美しい。真夏の緑や青空も目に鮮やかだがいつも涼しげ。
また室内の明暗のコントラストも美しい。それは作品のテーマとも通じるものを感じる。
一方市中は焼け野原である。

元木演じる天皇陛下が良い。本当にこんなお方だったのではと思わせるし、その知性や、深い考えがあることも漂わせる。いつも冷静なまま一定のテンションで話すのに、しっかり感動を呼ぶ。実に様々な役柄を使い分けられる俳優。

それらの美しさや静けさと比例して、ポツダム宣言受諾への過程は息を飲む迫力、一体どうなるのか、手に汗握る興奮がある。
混迷の末、ついに最悪の事態へと向かい始める。昨日までの価値観を180度変えろと言われて、それができない人がいることはおかしくない。

二分、三分する意見の側に、様々な俳優が置かれ、それぞれの苦渋の思いがあったことが描かれる。単なる善悪の二項対立の話ではない。

揉めに揉めても一向に収束しない議論にタイムリミットが迫り、最終決断を天皇に負わせるような形になっていく。もちろん平常時であれば天皇は政治判断に関与しない。
議会と天皇が終戦を決めそれに皆が従った、という単純ストーリーはイメージに過ぎないようだ。

もんぺの女性たちが竹槍の訓練をするシーンなどは、ひと目で、ああこれはもうだめなんだな、ということを観客に悟らせる。陛下の食事でさえ雑炊一杯。議会では文書を書くのにいちいち墨を署名すり署名をし花押を押す。
日本を代表すべき古い体制の象徴であるハンコ文化を見ると、これで世界と対抗できるはずもないと感じさせる。

途中、雑草や小魚などのたとえ話がよく出てきて、今がどういうことなのかを度々さり気なく要約してくれる。
終戦の経緯をよく知らない、興味がない、という人にも見やすいよう工夫がされている。

錚々たるベテラン俳優陣に目が行くが、そんななか若くして堂々活躍するのが松坂。額に血管を浮き立たせ、暴発する若さを先輩らに劣らない迫力で演じる。彼もまたこの映画の主役の一人と言える。

常に心を固く保ってきた男たちがふと感情を滲ませる場面には、別に国家や戦争や天皇に何の思い入れもなくとも、きっと心に響くだろう。
更にそれまでじっと耐えていた女性たちもいざという時には強さを発揮。

戦争映画は色々あるが、毎年8月に観る作品の一つに加えても良いのでは、と思う。そもそも作品として出来が良い。もちろん他の作品も併せて観るのがベターだろう。

ポツダム宣言をどう訳すのか、玉音放送の一字一句をどう決めるのかなどの場面は個人的に興味深かった。どうしても時間のかかる仕事だったわけだ。
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