平野レミゼラブル

ロブスターの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

ロブスター(2015年製作の映画)
3.2
『ここでは、45日以内にパートナーを見つけなければ、あなたは動物に変えられます――。』

この奇抜な設定を見たとき必ず思うはずだ。
何故このようなルールができたのか?と。

このような状況に陥る原因としてまず最初に思いつくのは「人口の減少」だ。少子化が進み、遂に政府で子作りを強要しないと人類が滅びる局面に陥ったのだろう。
強制的にでも男女を付き合わせて繁殖を促す。実にディストピア的な発想ではあるがそういう世界観として見れば納得がいく。

しかし、本作の舞台であるお見合いホテルでは同性愛も認められている。
「へ…へー、ディストピアっぽいけどLGBT的理解はしてくれるんだ…」と無理やり納得しようとしていると、続いてカップルが成立すると夫婦間の潤滑油として養子がオプションでつけられるという衝撃の設定が明かされ世界観が根底から揺るがされる。
子供くれるほどいるんじゃねーか!!

実はこの映画にそのWhyに対する明確な答えは用意されていない。
想像の余地こそあるが、映画中ではこの独特な世界観がただそこにあるだけなのだ。

そんな狂った世界だからこそ住民たちも相当におかしい。
彼らの恋愛観は必ず相手と「共通点」がないといけないというものだ。
現実でも恋人とは共通の趣味なりがあるに越したことはないが、この映画ではそういう類の話ではなくもはや一種の脅迫観念といっていい。
登場人物はそれぞれ鼻血がよく出る彼女と結ばれるために影で鼻を打って無理やり血を出したり、 サイコ女と結ばれるためにサイコを演じたりと非常に極端な行動に走っていく。

後半ではこのディストピアに反旗を翻すレジスタンス組織も現れるのだが、こっちはこっちで極端な「恋愛禁止」主義。
イイ感じのカップルが出来ようものなら即拷問、即処刑。娯楽は森の中でヘッドホンをつけながら各々でダンスパーティーとホテルとは逆のディストピアと化している。

そう、この映画に出てくるもの全てが極端なのだ。しかし登場人物の誰もがその極端さを受け入れ甘んじているため独特のシュールさが漂う。
そもそもタイトルの『ロブスター』は主人公がペナルティを受ける際に希望する変身動物で、理由は海底で静かに長生きできるからなのだからなんかやっぱり認識がズレている。

前述の通り、意図的なツッコミ待ちの世界観のため、ラストシーンを含めて観客の考察に委ねられて相当に人は選ぶ作品である。
ただ独り身には色々残酷でキツイものはあるものの、その空白の余地にハマれる人はとことんハマれるだろう。
自分はブラックコメディ部分が流石に淡々としすぎていてそこまでハマれたわけではなかったが、歪に未完成なへっぽこディストピアは見ていて結構面白かった。

余談だが新選組がノーベル賞を獲る漫画こと「ラブデスター」が『制限時間内にカップルになれなければ死ぬ(動物になる)』の共通点からコラボイラストを発表しているのだが、見終わった後に見直すとキャストが誰一人としてハマッてないことに笑ってしまう。
特にジウくんがどもりの男なのは酷すぎる。ジウくんが一体何をしたというのか。やはりジウくんは酷い目に遭う運命なのだろうか。