140字プロレス鶴見辰吾ジラ

疑惑のチャンピオンの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

疑惑のチャンピオン(2015年製作の映画)
4.0
キャプテンツールドフランス
ウルフオブツールドフランス
チャーリーハッスル
虚栄心の怪物
承認欲求の権化
ガンを克服したヒーロー
LIVING STRONG
剥奪されたタイトル


オープニングから地を這うスピーディなカメラワークとレーサーの息遣いを美しい自然に溶け込ませせ、その優美さに観客を引き込ませる。次いでツールドフランスをチュートリアル的なハイライト映像で写し、過酷さを事前に植え付けるようにF1レースと違うほどの生々しいクラッシュシーンを挿入する。この物語の主人公であるランス・アームストロングは、スポーツニュースを見ていれば、興味がなくともその名を知られたツールドフランス7連覇の偉業を成し遂げた男である。その裏にある彼の、そしてツールドフランスの深き闇に切り込んでくる今作は、アームストロングの虚栄心や汚れた野心だけでなく、ツールドフランスの闇自体にもスポットライトを当てている。

キャストも、虚栄心と野心を剥き出しにしながらもクールに話す力強さをベン・フォスターが熱演。アームストロングのフォームすらコピーする熱演だったらしい…
フェラーリ医師のマッドサイエンスティックな演出もピカイチ。彼を取り巻く仲間や家来と呼ぶべき存在も印象深い顔をしていた。

レースシーンの臨場感あるカメラワークは絶品で、地を這うように、上空から、自転車視点と様々なレースの見え方を伝えている。にもかかわらず、今作の提示している栄光の裏側の”闇”は強烈で、単にアームストロングの単独でなく業界がドーピングの泥沼に落ちていたことだ。レース中にアームストロングがチクった選手に睨みを利かせ、周りもチクリ魔は消えろ的に脅しをかけるところは、アームストロングの汚れた栄光以上に寄る辺のなき”ツールドフランスの闇”を象徴させてしまっている。ゆえにアームストロングの私生活やトレーニングシーンは写さずに、彼の癌患者訪問やサイン会でのヒーローとしての振る舞いと、勝利のためにドーピングをひたすらにやり続けるシーンを対比させたのだろう。それもドーピングをした後、レースシーンにカットが変わった際の意気揚々としたロックナンバーがBGMとしてヒットする演出がまた憎いのだ。

そして最後に残るのは、彼の”信念”の部分である。

虚栄心や自己承認、勝利への渇望は何によってそのエネルギーを供給されたのか?
最大保有酸素量の数字から導かれる”生まれながらの敗者”という理不尽さが彼を駆り立てたのか?
アームストロングのある種サイコ性のあるインタビューでのクールな応答シーンには、彼が人として外れた怪物なのか?理不尽さに対しての勝利への信念なのか?ある種パンキッシュで革命家的な側面すら感じ取れるのである。作中のスポーツ医が生理学を超えるなら倫理を犯してもいいというヴィジョン自体もどこか憧れを持ってしまうほど清々しいダークサイド性をもって描かれれていた。

世間では「日悪」「帰ってきたヒトラー」と問題作がラインナップされる中、隠れた良作として牙を向いている今作にも足を運んで欲しいと思う。