小

バービーの小のネタバレレビュー・内容・結末

バービー(2023年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

ジェンダー問題、女性(男性も?)の自立みたいなテーマもさることながら、社会構造に切り込み、<人がより自分らしくなる、人間らしくなること>とはどういうことかを鮮やかに描き切っている気がするけれど、どうかな?

スーパーモデル体型の"定番"バービーは、完璧ハッピーなバービーランドで毎日楽しく暮らしていた。しかしある日、そんなバービーランドにはそぐわない異変が自分の心と体に生じ、これを治すため勝手についてきたケンと一緒に人間界に行く。

人間界での自分はすべての女の子の憧れだろうと思っていたバービーは、反フェミニズムの象徴みたいな存在と非難され<自分が築いたアイデンティティと自分自身がぶつかってしまう>。

(以上の引用部分はフィルマガのグレタ・ガーウィグ監督インタビュー:https://filmaga.filmarks.com/articles/259000/)

人間界に来たバービーを販売元のマテル社は、箱に詰めて動けなくしようとする。追われる身となったバービーは自分の持ち主、その娘の2人と一緒にバービーランドに逃げ帰るが、そこは一足先に戻ったケンによって、人間界と同じ男社会に変えられてしまっていた。

2人の助けを借りながら、仲間を解放し、ケンとも仲直りしたバービー。めでたし、めでたし、これで以前のように毎日ハッピーに暮らすのかと思いきや…。

バービーランドはマテル社が<人間が自分の欲動をあますところなく理性のコントロール下に置く状況>をコントロールする世界。実は人類が目指してきた、あるいは今でも目指している人がいるかもしれないが、<夢想的な希望にすぎない>夢世界(引用はアインシュタインとフロイトの書簡『ひとはなぜ戦争をするのか』)。

映画『マトリックス』のアンダーソンにように赤い薬を飲む代わりにペタペタのサンダルをはいて夢から目覚めてしまったバービーは、マテル社の社長が提案するケンとのハッピーエンドではなく、<「これは自分のアイデンティティに欠かせない!」と信じていたことを、何度も自分で取り除いていく生き物>の世界に行くことを選ぶ(引用はフィルマガの監督インタビュー)。

ラストシーン、地についた踵(かかと)のアップは取り除いたアイデンティティの象徴。初めての婦人科受診は、次のような意味と考えると自分的にはとてもしっくりくる。

<バンヴェニストによれば、昔は能動態と中動態があり、中動態が変形して受動態になり、中動態は捨てられたと。中動態とは何かと言えば、わかりやすく言えば女性。妊娠して、出産する。しかし、生まれてくる子供の性別、容姿、能力、障害の有無は選べない。それを女性は覚悟して引き受ける。>(映画『サーミの血』のトークショーで宮台真司先生が語っていた言葉)

バービーからこんなオチへもっていくとは、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』のグレタ・ガーウィグ監督、やはり天才ですね。
小