140字プロレス鶴見辰吾ジラ

帰ってきたヒトラーの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

帰ってきたヒトラー(2015年製作の映画)
4.4
世界で一番悪いヤツ

しかし選んだのは国民であろう?

ここでひとつおとぎ話を
老人がある雪の日に凍死しかけたヘビを助けた。ヘビは元気になり老人も喜んだ。しかしヘビは老人を噛み殺した。老人は言った「なぜ、私を…助けたのに」、ヘビは言った「俺はヘビだからさ」

悪魔の最大の功績は悪魔など本当にいないと信じ込ませたことだ。



ご存知世界史上に稀に見る独裁者であるアドルフ・ヒトラーが現代に蘇ったら…というブラックユーモアというより挑戦的で挑発的な題材を単なる戯けたコメディでなく、ドキュメンタリックに描き、さらにさらに観客を笑わせながら困惑させ、緊張させ、そして信じ込ませるのだからアイデアだけのハリボテ映画ではないのだ。

映画「ボラッド」を想起されるようなドキュメンタリーとフィクションの混在する珍道中シーンは、所々モザイクの入った一般市民を見る限り笑えない。しかし踏み込んでいくスタイルであり、ヒトラーが徐々に徐々にコメディの化身からホンモノへと思い込ませていく手法にブラックユーモアを超えたメディアの演出による不条理性も叩き込まれる。

所謂、ヒトラーモノの映画ならチャールズ・チャップリンの「独裁者」がクライマックスの演説の熱量に当てられてしまうのだが、今作のクライマックスはいよいよ笑えなくなってきた現代的革命の末路を、終わりの始まりのスタートラインを見ているようで人間の愛の力でなく、人間の繰り返し続ける自業自得な末路を憂いているようだった。

単にヒトラーが蘇るのでなく、ヒトラーの信念を投影すべく主役のオリバー・マスッチ(B級ワニ映画に出てた役者)の揺るがぬ表情から現代に戸惑うヒトラーの可愛さまで引き込んでしまう主役っぷりに驚いた。

脇を固める役者はフィクションですよ!と安心させてくれる面々ばかりなのだが、主役のヒトラーだけは、その目に宿しているモノに笑いきれない何かを潜ませていて魅力的だった。

メタ要素ではあるが、映画ファン以外でもご存知の「ヒトラー 最後の12日間」のパロディ動画のパロディを重ねて仕掛けてくる抜け目のなさから、ユダヤ人老婆とヒトラー接触の緊張感までドップリとポリティカルブラックコメディとして高い基準で描いた稀有な作品だと思う。

ドキュメンタリックかつコメディ的要素に富んだ作品ゆえ、これならの歴史モノ、ヒトラーモノのワンオブゼムとして埋もれないで欲しい。

チャップリンの「独裁者」がゾンビなら今作は「ショーンオブザデッド」と思う。

人間には感情があり、”殺す”という行為に嫌悪を感じられるが、感情抜きに人工知能がヒトラーを悪い人間ではないと解釈したニュースも新しい中、ドナルド・トランプの躍進がメディアで騒がれている中、革命家に必要なことは「声の大きな者であること」という言葉が耳に痛い…