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メッセージの小のネタバレレビュー・内容・結末

メッセージ(2016年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

シンプルなストーリーに、哲学のエッセンスを上手くちりばめたSF映画。派手なアクションは一切なく、宇宙から来た謎の知的生命体との対話を通じ、人間の認識(カント先生)、他者(レヴィナス先生)、永劫回帰(ニーチェ先生)みたいなことを、自分的には感じる内容。

米国の言語学者ルイーズが幼い娘と戯れ、やがて、中学生か高校生くらいに成長した娘が亡くなるシーンから始まる。場面が変わり、大学の講義室。教壇に立ったルイーズは学生の要望でテレビをつけ、謎の知的生命体が現れたことを知る。

(これ以降、ネタバレですので、ご覧になっていない方は読まない方がよろしいかと。)



謎の生命体が来た目的は地球を救うこと。3000年後に地球人の力が彼らに必要になるから。地球が滅びるとしたら世界大戦みたいなことが原因ということだからか、謎の生命体の乗る“ばかうけ”(お煎餅の商品名)に似た形をした宇宙船は世界中をまんべんなくカバーするように12の地点に現れる。

謎の生命体が地球を救うためには、コミュニケーションできる地球人が是非とも必要で、彼らは12の地点のうち米モンタナにターゲットを絞る。なぜなら、そこには謎の生命体とコミュニケーションをとれるであろうルイーズがいることを知っているから。何故、謎の生命体は知っているのかといえば、彼らが人間がいうところの「未来」を認識できるから。

人間は「時間と空間」という概念をアプリオリ(先天的)に持っていて、そうした概念、つまり人間という形式によって世界を認識している。時間という概念によって物事を「時系列の出来事の連鎖」で捉えてしまうし、空間という概念によって物事を「大きい、小さい」で捉えてしまう。

人間以外の生命体がどのような概念で世界を認識しているか誰もわからない。人間とは異なる概念で認識している可能性はもちろんある。宇宙から来た謎の生命体は「時間」という概念を持っておらず、人間が言うところの「過去」も「未来」も「現在」と変わらずに認識できるということのようだ。

だから謎の生命体は、ルイーズに人間の言うところの「未来」を見せる。ルイーズが相手の言葉を理解しようとする一方で、自分達の言葉を教えようとしたように、謎の生命体も自分達の概念を教えようとする。

しかし、ルイーズはその際に謎の生命体が示した言葉を「武器を使え」と解釈し、言葉と自分が見た映像との関連性をつかめないでいる。

「武器を使え」と解釈したことは、世界の国々を激しく動揺させる。途上国の内戦を促して支配力を強めようとする大国のやり方を想起させてしまったからだ。つまり、謎の生命体は世界12カ所の地域に武器を与え、世界規模の戦争させて地球を支配しようとしていると思い込む。そして中国が“ばかうけ”宇宙船を攻撃する寸前まで事態が悪化する。

それでも根気よく対話を続けようとするルイーズひとりを、謎の生命体は宇宙船の中に入れる。ついにルイーズは「武器」と解釈した言葉は「ギフト」であり、それをルイーズに渡したと言っていることを理解すると、稲妻の閃光のようなひらめきが訪れる。

自分と娘とのあの映像は、「未来」のことだったのだ、と。すると、さらにその先の「未来」も見えてきて、その映像で謎の生命体の言葉について自分が執筆した本を読み、これまで受け取ったメッセージを理解する。

さらに、中国の宇宙船攻撃責任者と「未来」で会う映像も現れて、彼が攻撃をやめるに足る一言と彼直通の携帯電話番号を彼の口から聞く。そして「現在」、ルイーズはギリギリのところでその一言を伝えることに成功し、中国は攻撃を中止、撤退。宇宙船は次々に消えていった。

自分の思い通りにはならず、理解もできない他者。しかし、理解できないからと他者を切り捨てることなく、「対話」を続けてきた結果、世界が足並みをそろえるという新しい可能性が生まれてきた。

決して理解できない他者を理解しようと努力し続けること。それこそが、コミュニケーションの本質であり、人間が孤独に陥らず、共存しながら生きていくために必要なことであると。

さて、世界の危機は回避できたけれど、ルイーズは自分が見た人生を繰り返さなければならない。一緒に翻訳に当たってきた数学者の男性と結婚し、娘を産み、離婚し、娘と死別する。娘の名前は「HANNAH」。右から読んでも左から読んでも同じ綴りの回文の名前はもちろん暗示。

寸分たがわぬ人生の繰り返し。ある意味、死より辛いかもしれないニヒリズム。そこに幸福を見出すことは到底不可能のように思える。暗い表情を見せるルイーズに我々は学ばなければならない。

大事なのは未来がどうかではなく、今この瞬間なのだ、と。もし、寸分たがわぬ人生を繰り返すことになっても、何度でも味わいたいと思える瞬間を持つことができれば、人生は肯定できるのだ。

「どうなるか」ではなく「どうあるか」。それは未来が見えにくくなっている今だからこそ、もう一度考えなければならない「メッセージ」。

●物語(4.0×50%=2.00)
・話そのものはそれ程だけど、哲学的なところが自分的にはヒット。

●演技、演出(3.5×30%=1.05)
・終始彷徨っている雰囲気のルイーズがイイかも。謎の生命体の文字とか、まずまず好き。ただ、宇宙人といえばやっぱりタコかい、みたいなところは仕方ないのかな。

●映像、音、音楽(4.0×20%=0.80)
・抑えめの雰囲気が内容とあっていたかと。音も、音楽もそれっぽくて良い。
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