140字プロレス鶴見辰吾ジラ

シング・ストリート 未来へのうたの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

4.5
音楽は最高の隠れ家

不況に喘ぐ社会
口論する両親の声
抗いがたい力によって捻じ曲げられる日常

音楽は逃げ込むべき隠れ家
音楽は幻想の投影
音楽は原動力
音楽は衝動
音楽は希望を託す武器

街角で憧れにまかせて撮影したぎこちなくてダサいMVの滑稽さとそこに踏み込む覚悟のない自分自身。今でこそユーチューバーがそれを可能にしているが、不況下のダブリンで、ましてやイジメられる存在だった、孤独な存在だった、ホモと罵倒された存在だった少年たちが衝動の海に船出する覚悟は抗いがたい高揚感だ。メンバー集めやスキルの上達は3分クッキング的な演出でカットされてしまうが、カメラワークでパンしていくとそこに成長した彼らがいるというのは音楽の幻想力に他ならないということにしておきましょう。

曲がまたどれもこれも少年の尖った感じと背伸びした感じとぎこちなく格好良さを憧れ、求める感じが今作にフィットしている。サントラへの購入欲にも抗えそうにない。

意外にも主人公でなくエモーショナルな部分でキーマンになった大学中退の兄貴。終盤へ向けて感情を吐露するシーンで、ロックな生き方に逃げ込んだ若者の成れの果てでなく、”精一杯”を届かせることのできなかった我々側の存在、敗者的な存在ではありますが、弟のロックな衝動に希望を託し、クライマックスの主人公の決断に穏やかな笑顔を送るシーンが印象深く、最後の本当の意味での船出に対し精一杯のガッツポーズを魅せるシーンで涙腺が決壊した。こう書いてる今も涙が滲むわけで…

ライブのシーンの主人公の信念とそれに応えた仲間の信頼、そしてラスト曲の反体制、反倫理的な幼い衝動の結果がなんとも微笑ましい。最高だ!ふふ