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しあわせな人生の選択の小のネタバレレビュー・内容・結末

しあわせな人生の選択(2015年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

(ハデなネタバレはしていないつもりですが、妄想解釈を書いているため、観る前に色を付けたくない方は読まない方が吉です。)

<きみから教えてもらった事、それは決して逃げ出さない勇気>。映画のチラシにあるこの惹句。この言葉の主語と「きみ」とは一体、誰なのか。

カナダで暮らすトマスは、親友のフリアンが余命わずかであることを彼のいとこのパウラから聞き、フリアンの住むスペインを訪れ、4日間ともに行動する。

先の言葉の主語と「きみ」は、トマスとフリアン、またはフリアンとトマスとどちらに考えても良さそうに思うけれど、主語を私にすると「きみ」とはトマスである。

人が延命を拒否した人に考え直すよう説得する理由は、悲しみたくないからだろう。一方、延命を拒否した人がその説得に応じないのは、苦しみたくないからだろう。人が苦しみを我慢するのは死にたくないからなので、ひとたび死を受け入れてしまえば、苦しみを我慢する気持ちは弱くなる。

人は悲しむ人がいる限り生きなければならないのかもしれない、と余命宣告をされた経験のない自分は思いがちである。しかし一方で、苦痛を受けている人が延命を拒否したとしたら、「あなたがいなくなると自分が悲しいから頑張って生きて」と、いえるだろうか。

大親友のトマスなら、フリアンを心変わりさせてくれるかもしれないというパウラの期待とは裏腹に、トマスは、フリアンの愛犬トルーマンの里親探し、離婚後しばらく会っていなかった息子の誕生日祝いのオランダ訪問に、ただ付き合うだけ。

トマスはとても悲しいに違いなく、フリアンに言いたいことはたくさんあるだろう。しかし、1年かけて死を受け入れる覚悟を決めたフリアンのエゴを尊重し、悲しいから生きてほしいという自らのエゴを封印し、表面的には感情を荒立てることなく、フリアンに接し続ける。フリアンに、こうしたほうが良いと提案はしても、説教もせず、文句も言わない。

そしてフリアンは、息子との再会とその後出来事もあって、トマスに完全に肯定されていることを理解したように思う。それはフリアンにとって、延命を拒否する選択がもたらした“しあわせ”な4日間。

トマスがカナダに帰る空港でのシーン。フリアンはトマスに最後のメッセージを託す。「俺は君に完全に肯定されたことを理解しているよ」と。そしてトマスもやはり黙ってそのメッセージを受け入れる。

死を受け入れた人を肯定することは、とても苦しく、逃げ出したいことだろうと思う。悲しい気持ちを、怒ってぶちまけ、その場を去った方が楽だったに違いない。しかし、トマスは逃げ出さなかった。その勇気によってフリアンは人生最良の時間を過ごすことができた。だからこの映画は、自分にとってはトマスの勇気の物語。

●物語(50%×4.5):2.25
・正直言うと、観る前から寝不足で眠く、静かなシーンに断片的にウトウトしてしまった。ということもあり、鑑賞直後はピンときていなかった。しかし、良く考えてみると、これはナカナカな物語。

●演技、演出(30%×4.5):1.35
・言いたそうにしつつも言わないトマスが好き。そして、フリアンには決して見せることのなかった感情の爆発があのようなシーンだったけれど、決して無理スジではなく、リアリティを感じた。

●映像、音、音楽(20%×3.0):0.60
・寝落ちのせいか、印象は薄め。
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