2016年公開

原作は1958年に発表された瀬戸内寂聴の同名小説。

この小説は瀬戸内寂聴の自伝的小説である

新潮同人雑誌賞を受賞後
プロとして発表した「花芯」はその内容から「ポルノ小説」と文壇と世間から批判を受け「子宮作家」とレッテルを貼られて以後長く文壇から干される事になる。

その後、しばらくして他作で女流文学賞を受賞後、50代で出家した後
谷崎潤一郎賞、
野間文芸賞、
泉鏡花文賞、
朝日賞を受賞、
2006年には文化勲章を授与されて数々のヒット作を生み出している

しかし瀬戸内寂聴本人はどうしても生きている間に純文学の最高峰「芥川賞」「直木賞」を受賞したいと願ったが未だ願いは叶っていない。

この「花芯」を見るにあたり
瀬戸内寂聴の半生を記しておく
21歳で親の言うまま見合い結婚
夫の仕事で北京に赴き
娘を授かる
日本に帰国後、夫の教え子と不倫関係に陥り、夫と子供を捨てて東京から京都に移り住む
その後、出版社などで働き生活をしつつ執筆を続ける、出家を志し数々の寺を尋ねるがどこも相手にされず長い年月が過ぎるが、天台宗の僧侶との出会いがあり得度を受けて尼となる。

私はこの「花芯」をFilmarksのレビューで知った、最初フライヤーの写真を見て「濡れ場系」の映画なんだな、観てる人多いな、面白いのかな。と思っていた

コロナ禍により日常生活のリズムが大きく変わり世の中もなんだか色々穏やかでない中
LGBTについてもニュースで騒がれたり、日本は「男尊女卑の国」とTwitterなどで呟かれ多くのイイネを獲得されているのを見て

当たり前の事が騒がれるようになったと言うことは「変化」して来ていると言うことなのかな…と思っていた。

そんな中、もう数週間もFilmarksでレビューを書くべき映画に出会えなくて
「私このまま、感想文書きたいと思う作品に出会えないのかな…」
と思っていた
私がFilmarksに書くレビューは映画を観ている時に頭の中に残る「台詞」があり
ストーリーがふつふつと自分の中に浸透して来て、映画を見終わる時には文章が頭の中で出来上がり流れ出てくる物を書き留めている。

今回、色んな作品を観た中で感想が頭の中から流れ出てきた作品が「花芯」だった。

この「花芯」が瀬戸内寂聴の原作だと知った時から私には書き留めておきたい事があったが作品が思っていたのと違うとそれも書けない。
この映画は瀬戸内寂聴の小説を良く考慮されて作られた映画だと思う。

この映画を見るもう一つのきっかけは
俳優の安藤政信が出演してたから。
安藤政信は松田龍平の「46億年の恋」で知った俳優さん。
「松田龍平の事が好きだと気付いたら、生きてけなくなって死んでしまう」役を演じていた。
全身の刺青が扇情的で、近付く者全てを傷つける狂犬のような演技が素晴らしかった。

顔と演技が好みでどんな人なのかwikiってみたら
「俳優になって芸能事務所に所属する事に疑問を持って、事務所を辞めた。
周りの人は止めたけど自分には必要無いと思った。
深く考えずに、事務所を辞めたら仕事が全く無くなって路頭に迷いました」
というインタヴュー記事を読んで
「うわ〜役者っぽいわ〜！いいわ〜！」
と思ってファンになった俳優さん。

1時間35分の上映映画として
「花芯」のレビューを書くにあたり
まずこの映画はR15指定
そして人間の肉欲について、またジェンダーについて、昭和の戦後の女性について思い付く事を書き留めておく

⤵︎⤵︎⤵︎⤵︎⤵︎⤵︎⤵︎⚠️ネタバレ⚠️⤵︎⤵︎⤵︎⤵︎⤵︎⤵︎⤵︎
⤵︎⤵︎⤵︎⤵︎⚠️R15⚠️かなり自分勝手な感想と性についての考察を書いております。個人的感想なのでお許し下さいませ、ごめんなさい⤵︎⤵︎⤵︎⤵︎⤵︎⤵︎⤵︎m(_ _)m⤵︎⤵︎⤵︎⤵︎⤵︎⤵︎⤵︎


















「花芯」とは中国語で
「子宮」という意味である。


作者、瀬戸内寂聴はこの小説で「子宮」で感じる「女」の性について書いている。

昭和20年8月
日本は戦争に敗戦する。
主人公・園子はその敗戦を知っても泣くことも無く
「今までお国のために生きなきゃならなかったのが、これから何のために生きなきゃならないのかしらね」
と冷めた考えの持ち主
かねてからの婚約者である雨宮は
園子の父の計らいで文学者になる事を諦めて、婚約者の園子が戦争で婚約者を亡くしたり、その後の生活に困らないように文学科から工学科に籍を移して二人の将来の事を見据えてくれる。

「理数系は徴兵制度を免れますものね。
私のためとか言って、戦争に行きたくないだけでしょう？」

と親と本人の前で言って園子は父から叱られる。
戦争中に「徴兵制度から逃れるために」などと言葉にする事は絶対に許されない事と考えると園子はかなりの性格の持ち主だとうかがえる。

園子には妹がいるが、その妹はあきらかに園子の婚約者の雨宮の事が好きである。

終戦の年
厳格で世間的にも地位のある立派な園子の父が売春宿で
娼婦を抱いている時に脳溢血を起こして全身麻痺になる。
翌年、身体の不自由な父を安心させる為に家族は園子を雨宮と結婚させて、雨宮は園子の父に
「お父さん、ご安心下さい。今後は園子さんの事もこの家の御家族の事も僕が全て責任を持ちますから」と言う。

雨宮は園子と結婚するために
童貞を守り抜いた真面目で純粋な男
そして園子を大切にして、真面目に仕事をこなして良い夫の鏡のような男性。
結婚翌年に長男が生まれる
子供が3歳の時に東京から京都に夫が栄転
その赴任先で園子は運命を変える男に出会う。

この映画を見ていると
処女の園子が結婚をして夫に抱かれ
最初はSEXって妻の義務ですね。という感じだったのが、だんだん身体が目覚めて来てSEXの快感を知っていく様が良く描かれている
これは園子のために童貞だった夫が色々頑張った結果だと思える
彼女は全くの受け身でマグロだったわけだから、夫があれこれ工夫して妻を喜ばせれる男になっていったんだと思う
そして雨宮はとても良い夫
夫婦の営み中、妻の隣で眠っている赤ん坊がぐずり出すと、まず妻を満足させてから、ササッと布団から出て赤ん坊を抱き上げてあやしている。
妻は布団の中で気持ちよくなって横になったまま動かない。
こんな事ササッと出来る男がこの世に何人いるだろうか？？？
この場面で雨宮が貴重な良い夫だということがよく分かる。

しかし、結婚に夢も希望も持たず
夫に対しても愛情を育てる気も無い園子は
夫の上司の越智に初めて会った日から好意を寄せる

自分しかいなかった世界に突然現れた異性のように感じたのだろう。

越智は園子が間借りしている借家の隣に住んでいた。
そこの大家の北林夫人は夫を亡くしたお金持ちの未亡人。
北林夫人に誘われて夜な夜な越智も交えて麻雀をするようになる。

隣の席で牌を混ぜる越智の指先が偶然触れただけで意識してしまう園子は
ある日、口紅を買って鏡に向かって紅を引く。

園子が初めて女性らしい仕草と女らしい表情を見せる場面だ。

しかし、それから数日もしないうちに夫に「あそこにはもう行くな！
麻雀もするな。
北林夫人は下宿していた学生の越智をたらし込んで、
以来20年間、越智の見合いも昇進も全部潰して囲い込んでるって教えられた。
あんな不潔でふしだらな人達と関わると園子が汚れる！」と言う

人生初めての淡い恋心を抱いていた園子はその事実に衝撃を受ける。
麻雀をしながら正面に座っていた中年女性は、隣の席の美しい男とデキていた事実に園子は傷付く。

園子は夫の言う通り麻雀も止めて
北林夫人の母屋にも行かなくなり、越智とも顔を合わせなくなるが同時に魂が抜けたように完全な鬱状態になる。
これは深刻な片想い状態なんだと見ていて分かる。
とうとう夫に「越智さんが好きです」と告白してしまう。
この場面を見ると園子がいかに世間知らずで、自分の立場も考えず、夫に対して無関心かがよく分かる。
雨宮は
「僕が忙しくて残業が続いて、子供も東京にいて君は寂しくて暇過ぎて気持ちが浮ついただけだよ」
と理解を示すが
夫婦の営みも断られ続けて怒り心頭する

そんな中、ある夜久しぶりに
妻を抱くことが出来た雨宮は二人の愛情を確かめて妻の身体が喜ぶ様を見て安心するが、すぐに布団の上で快感の余韻に浸る妻の口から

「愛があるから感じるわけじゃないんだよ、試して見たんだから本当よ」


と耳を疑う言葉を聞く

「お前、まさか越智と寝たのか！」

と言った雨宮は妻の酷い返答に言葉を無くすことになる

「違うわよ。
好きな人とならどんなになっちゃうんだろう…」

雨宮は妻の首を締めて殺そうとして我に返って止める
園子の心の中に自分がいないことを思い知る

園子は東京から園子に会いに来た我が子や母、妹にも関心が行かず、やがてその精神は越えてはならないと張り詰めていた一線を超えてしまう。

越智から離れて、東京に戻り
幼い子供を抱いて母親の自覚が戻れば落ち着くはずと、考えた雨宮は京都から東京に転勤を申し出る。

麻雀をした夜以来
越智に会えなかった園子は
引越し前のほんの一時の間をぬって越智に会い、思いを告げると越智も同じ気持ちでいてくれた事を知る
そして
「必ず、東京に会いに行くから」
と約束してくれる。

やがて二人は密会して関係を持つようになるが、一番最初に越智と抱き合った直後から園子は突然「達観」しだす。

「私達、一緒に暮らせないわね」

越智は本気で園子の事が好きだったから
そんな事、先の話は分からないじゃないかと恋する男の顔だが

「覗いちゃいけない深淵を覗いちゃったんだわ、わたし…」

と園子は言う
やがて二人の関係はただれていく。

越智は北林夫人と切れる事が出来ないし
園子は夫とは別居してボロアパートに住んでいるが、越智との関係をズルズル続けながらも、一度きりの男達との関係を持つような女になっていく。

「相手が誰であれ結局子宮は恥知らずな呻き声を上げるのね」

と越智に言う
越智はその事を園子の口から聞くと
「どうして愛してもいない男とそんな事？僕のことを愛してると言えばいいじゃないか」と言うが

園子は
「私、あなたに恋をしたの、でも最初の夜で終わってしまった。
でも貴方が私達のことをそおいう言葉で言いたいなら、いいわ、愛してるわ…」
と言う

越智はその場を立って
「愛が無いなら君に金を払わないとな」
と札を布団の上に置く(多分5万～10万円位)そしてさっさと服を着て
「また来るよ」と言って帰ってしまう。

この物語の主人公の園子は常に
なげやりだ
何も面白くないし
何にも関心が持てない
言われた通りに生きてきて
言われた通りに結婚して
子供が出来たから産んで育てた
でも
ある日突然好きな男と出会った
好きな人に抱かれたらどうなっちゃうのかなと思ってたけど
抱かれたからって人生変わるわけでなし
夫は離婚しないし
好きな男は年増女と切れないし
恋した気持は薄れていく
妹は夫と関係を持つようになって
自分を気使って黙っているけど
夫が妹と結婚して子供の母親なったら
それが一番いいわと本気で思っている。

夫にその事を言うと

「女のくせに、はしたない事を言うな」
と言われる。
「お前は本当に僕を愛してなかったんだな」と雨宮はつぶやく。

ああ、私何のために生きているのかしら

という言葉が聞こえてきそうだ
「なげやり」「開きなおり」とか「ふてぶてしい」とか「感謝が無い」とか「母親のくせに」とか色んな言葉が聞こえてきそうだ。

友達もいないし、物事に執着しない。
一歩踏み出すと社会の常識から大きく外れてそれを隠す事もしない。

園子の唯一確かなものは
肉欲の交わりで感じる子宮の喜び。
けれどそれも一瞬のこと。

映画はその後
園子の母の葬式の場面で
園子が久しぶりに、我が子を前に見つめているが、息子は怖がって育ての親の妹の膝に走り寄る
妹の隣には雨宮がいる。

一人、寺の門を出ていく園子
喪服の妹より若く見える。
「あんたも早く雨宮に籍を入れてもらいなさい」と妹に言って去っていく。

「私が死んで焼かれたあと
白い、か細い骨の影に私の子宮だけが焼け残るんじゃないかしら」

という台詞で映画は幕を閉じる


この主人公、園子が瀬戸内寂聴ならば
この後「花芯」を執筆して
50を過ぎて出家して天台宗の尼になるわけだが…。

誤解を恐れずに感想を言うと
この映画に限らず
女であることを「子宮」に求める考え方が私は凄く気持ち悪い。

なぜなら、その考え方には「男」が必要不可欠だからだ。

個人的意見だが
私は今までに瀬戸内寂聴と、
三重県の小野小町の縁で有名な精進料理を出す名物の尼さんにお会いした事がある。

なぜ「尼」になる人は(このお二人しか私は存じ上げないので偏った意見かもしれない)
尼になってもう何十年と過ぎているのに、恐ろしいほどに「男」に執着するのだろうと思った事がある
その寺の尼さんは

許されない禁断の恋をした、そのために身体の一部が不自由になったけれど、これは私があの男性を本気で愛した証、そのため私は一生罰を受け続けるのです。

と「愛した男がいた」自慢を死ぬまでしていた尼さんだった(どなたか分かる方もお許しください)
そして名物尼さんに会うことを楽しみにやって来た女性客から「お肌が美しいですね」と言われれば「あんた若いのにボロボロやな」と言い。
「苦しい恋ってやはりあるんですね」と言われれば「あんたのしょうもない男の話と一緒にせんといて」と恐ろしいまでに戦闘的だったが
男性客が何か言うと物凄く優しく受け答えしていた。
私は直接言葉を交わすことは無かったが
尼さん怖い…尼になってもなお「女」を捨て切らない所か女の醜い所の塊に見えた。

そしてこの瀬戸内寂聴の「花芯」
まだ出家する以前に書かれた小説だが
瀬戸内寂聴という方の講和の中で度々「許されない恋」について熱く語っておられるのは知っていた、不倫に理解ある尼として有名。

女だから男を愛すると子宮が喜ぶ
とも取れる内容だが

レズビアンの私が申し上げると
「男じゃ無くても子宮が喜ぶことはある」
そしていちいち子宮を意識しなくても
SEXでの快感と満足は十分得られる。

「子宮」があるから「女」なんだという考え方に疑問を感じる。

「子宮」が無くても、「女」として生まれていれば髪の毛一本からでもDNAは「女」である事を証明出来る。

「子宮」があるから男に抱かれると「女」である喜びを感じる？

「子宮」は性感帯では無い。

その色気付いた、滞った考え方に嫌悪を感じる、故に瀬戸内寂聴は長く文壇から干されたのだろう。


学生時代の全てをキリスト教系カソリックの学校で過ごした私は常にシスターが身近にいた。

仏教の尼とキリスト教のシスター
似て非なるものである
キリスト教のシスターは
シスターになった時からキリストと結婚しているようなものである。
だから他に生身の人間の男が好きだとなるとこれは
「サウンド・オブ・ミュージック」のマリア的立場になって修道院を出て行かなければならない。
かなりの人数のシスターにお会いして来たが「男」「男」と言う人は一人もいなかった(私の知る限り)そう思うと仏教の尼さんはなんだか業が深そうだな。と思う

「花芯」は瀬戸内寂聴の原作だと知らなければ
親の言うまま結婚した娘が
やがて出会った男と恋をして
不倫関係に陥り
その関係もうやむやになり
一人で生きてく。
やたら夫婦生活を覗く場面が多い映画。
何が言いたいのか分からない。
主人公の女優さんも特に色っぽくも無いし
可愛気も無い。
…という感想になるだろう。

「アンナ・カレーニナ」のように不倫に苦しみ、家に置いて来た息子に会えない事に苦しみ、相手の男の心も信じられなくなり
鉄道自殺もしないし

「ボヴァリー夫人」のように
不倫相手にドン引きされて捨てられて
行き場が無くなる話でもない。
(ただし、劇中に園子が「ボヴァリー夫人」の小説を持っている描写が出てくるあたり、作者は「ボヴァリー夫人」の
主人公「エマ」を意識して園子を描いている事が分かる)

自分が女である事の証明とする
「子宮」の疼きの赴くままに

私が間違った事をしたのは分かってるのよ

でもどうしようも無いじゃない。

と一人去っていく。

好きか嫌いという判断では無く
この作品の主人公の園子は「完成」された形をしている

そう思うとあっぱれな作品。

とにかく出てくる人みんなビジュアル良くて表情や動きも美しい。主人公の性別を越えた器の広さや恋愛観が見どころ。特に妹に対してのふるまいが凄い。なかなか攻めた描写も多いが、主人公がひとりでいるシーンが一番色気があって魅力的なのが少し不思議なところ。女性目線の深い内面を描いた作品は少ないので、それだけで貴重だった。

瀬戸内寂聴原作の恋愛映画。
許嫁で結婚し子どもも出来た園子だが旦那に対し愛を感じたことがなく、そこに現れた旦那の上司に恋愛感情を抱く官能的なストーリー。
全体的にエロスの物足りなさがあり画家志望との悦楽もサッパリ、間を埋めるようにジムノペティが流れるけどちょっと頼りすぎてる。子供を預けてる園子の心情もよく分からん。
村川絵梨や林遣都、安藤政信と役者が揃ってる割にちょっと残念。