ゆーあ

ブレードランナー 2049のゆーあのネタバレレビュー・内容・結末

ブレードランナー 2049(2017年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

なんて芸術的で、普遍的哀しさに溢れた作品なんだ…!

SF映画のニュースタンダードを確立した作品として伝説的威光を放つ『ブレードランナー』。
それが創り出した「破滅的なサイバーパンク」像は、作品のみたことある/なしに関係なく今や全世界共通の未来ビジョンの1つになっています。私が1作目を観たのはリアルタイムではなく、そのビジョンに影響を受けた様々な後続作品を経てからだったので、当然目新しさはありませんでしたが、噂に名高いオリジナルの完成度と、それ故に未だその未来予想図が書き換えられていないことに驚きました。それだけ『ブレードランナー』の、濡れたネオンがきらめくディストピアは、私たちにとって居心地がよかったのだと思います。

そんな腰の重い私たちを、ようやく更に先の未来に強制移住させたのが、他でもない正当続編の『ブレードランナー2049』です。あれから30年、地球はより住みづらい環境に悪化し、強まる酸性雨で根っこまで枯れ果てた星になっている。一方テクノロジーは進化し、街はファンタジックなサイバーパンク世界から、面白みを引いた冷めた風景になっている。このノスタルジーの消失が映像技術の進歩によるものではないことは、同年に公開された『攻殻機動隊 ゴースト・イン・ザ・シェル』を観れば明らか。ただそんな進化したテクノロジー社会において、スピナーやブラスターなどの特徴的アイテムの造形に、1作目の遺伝子が色濃く残っているのがいいね!この辺の造形物を愛でるのもブレランファンの楽しみの1つではないかと思うので、ゆるぎないサービス精神です。

もう一つ、前作の特長を引き継いだ点として嬉しかったのが、音楽!ブレランの宇宙的浮遊感のある音楽は気持ちよく好きだったので、今作もそれが生きていて良かったです。更にそこにドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の哲学的テイストが加わり、『2049』は静粛な美術館で映像芸術をみている心地になりました。特にデッカードがウォレスと対面するシーンは、部屋の造りやライティングもあいまってとってもアーティスティック!偽物のレイチェルを、そうだと解りながらも再度喪う辛さを味わうデッカードの心痛と、ウォレスの残酷さが孤独な空間に反響し増幅され、強く心を揺さぶられました。

さてストーリーについて!自己(アイデンティティ)についての問いに基づくレプリカントの悲哀は前作からのテーマですが、今作は主人公自身が明らかにレプリカントということで、より深い哀しみに貫かれていました。とりわけアナとの会話は引き裂かれるように辛かった…!「自分は特別な人間だ」と信じたい。それはレプリカントでなくても、誰しもが抱く普遍的な願いで。だからこそ、それが否定され、有象無象の一人であることを突き付けられた時の失望感と悔しさも容易に想像できる。Kは当初仕事において感情を表すことを必要と考えない「よくできた」レプリカントでしたが、木彫りの馬を隠した記憶を「誰かのコピーだ」と断言された時の嘆きは完全に人間のそれで、いよいよ人間とレプリカントの、出生以外の違いが判らなくなりました。観終わった後もその答えは出ないままで、きっとそれがシリーズのメッセージの一つなのだと思うけど、きっと「自分のために自分を知ろうとする」ことが分岐点なのかもなあ。そんなKの様子を見たアナは涙をこぼしますが、最初あれは共感によるものだと思っていたけど、結末を知ると、罪悪感も大いに混ざっていたと思う。彼女がそれを抱く必要は全くないのだけど、その優しさが余計に両者の切なさを煽ります。

人間と人造物との違いといえば、Kとジョイの甘く苦い関係はとてもロマンチックでした。ジョイはKと比べても遙かに「人造物」なのだけど、物語が進むにつれて自分の意見をはっきりと進言し、複雑な感情を表情の奥に滲ませるようになるので、彼女もまた人間と変わらないパートナーに見えてくるんですよね。けれど物理的に血が通った肉体を持たないので、娼婦の体を借りてKと愛を交わすシーンは、「にせもの同士」なのだけど、本人たちにしか感じられない極めて密やかな悦びがあり、それが故の深い哀愁を感じました。

続編を制作するにあたり、デッカードとレイチェルの未来を変えうる特別な可能性や、ディストピアに抗うレジスタンスの活躍など、焦点を当てる方向によってどんな映画にでも振れる要素に満ちているのだけど、その中で「一人のレプリカントの悲哀」という極めて個人的な世界に終始したのは素晴らしい決断だと思います。「自己存在の探求」というテーマを軸に貫いたからこそ、『2049』はほかでもない『ブレードランナー』というシリーズなのだと。

最後はとにかく哀しくて、隣の見知らぬおじさんとずびずび泣いてしまいました。「もしかして」という望みが何度も吹き消され、報われないまま迎えたラストだけど、デッカードの「俺は君のなんだ?」というセリフ。あれが聞けただけで、Kには充分だったのかもしれないなあ。
ゆーあ

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