minorufuku

ありがとう、トニ・エルドマンのminorufukuのネタバレレビュー・内容・結末

4.6

このレビューはネタバレを含みます

30代後半キャリアウーマンのヒロインのもとに事前連絡無しに父親が訪ねて来る。仕事で忙しく時間も惜しいヒロインは数日間なんとか父親をあしらって帰ってもらったのだが、翌日から父親はカツラと入れ歯で変装し、フリーのコンサルタント「トニ エルドマン」を名乗り、職場のヒロインをつけ回すようになるのだが…という話。

ドイツ映画で舞台はルーマニア。女性の新鋭監督のヨーロッパで映画賞を総なめにしたという作品。

上映時間がとにかく長い。2時間40分。コメディで、あらすじを読む限りそんな長尺な作品とは想像していなかった。序盤から不自然なまでの長回しが続き、メインのトニ エルドマンが出現するまで30分以上かかる。長いよー。しかも内容は父親が娘の仕事相手に親父ギャグ的な笑えないジョークをかますところを娘が心底嫌そうな顔で見守る流れの繰り返しで、よくこのネタでこんな長い映画作ろうと思ったなあとある意味感心。
でも、この映画、長さの割に不思議とすんなり観れてしまう楽しさがあった。仕事ひとすじで息苦しそうに生きる娘が心配とはいえ、変装してあそこまでつきまとう父親の愛情深さには笑いと心温まる感情が湧き上がったし、その父親を完全には拒絶せずに生温かく見守る娘の複雑な感情は非常に丁寧に描かれていると感じた。父親の無茶な設定の隙を狙って娘の意地悪なところも面白かった。反面、石油会社向けのコンサル業務という娘の仕事面については貧困や現地作業員のリストラ問題などリアルで重いテーマが盛り込まれていて見応えがあった。日本映画のコメディだとこういうビジネス部分の描き方がとにかく薄っぺらいので見習ってほしいと思った。音楽教師で生活力はなさそうだが、コミュニケーション能力が以上に高い父親と、生真面目で仏頂面なバリバリのキャリアウーマンである娘の対比も良かった。
極め付けはラスト30分のシュールな展開で、そこまで生真面目に描かれていた娘の振り切れた行動には驚かされて大笑いしてしまった。娘の熱唱シーンは必見。じわじわくる笑いと感動が味わえる。あと全裸誕生会に現れる謎の着ぐるみには本当に度肝を抜かれた^_^

父娘の微妙な関係というものはどこの国でも似てるのかなあと思った。
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