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荒野にての小のレビュー・感想・評価

荒野にて(2017年製作の映画)
4.0
ヒューマントラストシネマ渋谷で鑑賞したのだけれど、横長のデカいポスターが貼ってあってそこに橋口亮輔監督の『家の子供になりたかった。』というタイトルの、パンフレットにあるらしい文章が載っていた。

それを読んでから鑑賞したことで「家の子供になりたかった」という言葉を補助線にホウホウと観ることができたこともさることながら、橋口監督の次の文章が引っ掛かった。

<ヘイ監督の映画には、何十年も忘れていたはずの、そんなナイーブなためらいの欠片に触れてくる力がある。自分でも判別がつかないまま手つかずにしていた感情や、埋もれていた記憶の断片に触れてきて、映画の時間の間、自分の時間と対話している。そして、観終わると自分の人生に対する構えが少しだけ整うような体験をする。>

<自分の人生に対する構えが少しだけ整うような体験をする>とは上手いことを言いますな。でも、それは具体的にはどのようなことだろう。

家から荒野に放り出された主人公は家を求めてさまよう。<やっと家の子供になれた本作の主人公は、その最後のカットで立ち止まり世界の様子を伺うような表情を見せる。この世界は、果たして信じるに足るものなのかと。その思慮深さこそ、ヘイ監督の資質であるように思う。>

人は誰でも社会という荒野に一人出ていかなければならない。その荒野では、主人公ほど短期間で、過酷ではないにしても、誰でも同じような経験をするから<映画の時間の間、自分の時間と対話している>ことになるのだろうと思う。

そして<家の子供>であることに慣れすぎて、荒野にいることを忘れていた自分に必要なことは<この世界は、果たして信じるに足るものなのかと>問い続ける思慮深さであることに、主人公の姿を通じて気付くのかもしれない。
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