かなり面白かった。男になった女の話かと思いきや、男のふりをする女、いや女たちの物語だった。閉塞感強まる男社会に風穴をあけるのは女性なのだ、と。
敏腕ロビイストのヒロインは、新たな銃規制法案を廃案にしてほしいという依頼をきっぱりと断り、移籍して法案成立に向け活動する。
その動機は、本当に大切なものは男社会のルールではなく、人間本来の自然な感受性なのだ、ということだろう。人が平和に暮らすためには、銃や核兵器はない方が良いに決まっている。腐った世の中を変えるには、"当たり前"を貫くしかない。
しかし、この"当たり前"を貫くことが男にはなかなかできない。「銃規制強化に反対するのは、一部の金持ちが自らの利益を守るためかもしれないけれど、相応の理屈はあるし、皆が反対なら仕方ないのでは」と、つい理屈を優先してしまう。どんなことにも理屈はつけられるから、それが生命の危険を高めるであっても「いやいや逆に銃を持っていれば、護身になるでしょ」と思いついてしまう。
子どもを生み、育てる女性という性は、理屈をアレコレ考えるよりも、生きることの大切さを知っている。だからスパッとゴールにたどりたどり着く。「ごちゃごちゃ言わずに銃は禁止、そうすれば銃で死なない。文句ある?」
ルールと理屈が幅をきかせる男社会の中で、自然で当たり前な感受性は劣勢に立たされている。にもかかわらず、そこを突き崩そうとするのであれば、どんな事態になろうとも引き受ける覚悟が必要だ。そしてそれは、どんな子どもが生まれようとも覚悟して受け入れる女性という性にこそ備わっている。
男としてなりすますヒロインが時折見せる女性としての葛藤、ヒロインが女性であることに気づいているエスコートサービス(お金による恋愛相手)の男が物語をスリリングに演出する。そして『女神の見えざる手』が明らかになった時、ああ、やはり…と。
脚本の方、本作がデビュー作とのことだけど、凄いわ。今後、要チェック対象に決定。
●物語(50%×5.0):2.50
・結末を知った今、もう一度じっくり見てみたい。
●演技、演出(30%×4.0):1.20
・男になりすました女性の方の演技がとても良かった。
●画、音、音楽(20%×4.0):0.80
・過不足なく、良かった。