B5版

サーミの血のB5版のネタバレレビュー・内容・結末

サーミの血(2016年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

だいぶ良かった!
哀の感情の余韻がすごい。良作。

主人公エレマリャが自由を勝ち取るために権利を行使するというより最早それが責務なのだという勢いで突き進み続けていく、まるで「進撃の巨人」のエレンイェーガーの様だ。

恋人との最初の出逢い以降の行動だって、失恋の未練というより最早、溺れる者が藁に縋るのと同じ、凄惨な生への渇望によるものだ。
一度は故郷に戻るも、身の内で鳴り響く衝動は彼女の背を押し続け、街へと攫った。コミュニティの中で家族と共に安寧に身を委ねる生き方を彼女は自分自身に与えなかった。
エレマリャがエレマリャであるためには、「クリスティーナ」になるしかなかった。

妹の死の知らせで再び降り立つ幾十年ぶりの故郷。変わらぬ風景の中確かに変容する故郷と、二度と会えない家族。
時が経ち都市の文化に俄に迎合していった故郷を見て何を思ったのか。

故郷の様相が都会に幾許か近づいたとして、姉妹近しく生きる道はあったのだろうか。母国の贖罪に宿るのは悔恨だけでなく、自分が離れたいと願った場所に妹を置き去りにした罪悪感、長子としての責務、数えきれない言の葉の結晶。
誹りの言葉も赦しの抱擁も、彼女に与えられたのかは最早永遠にわからない。

主人公の記憶とともに明らかになるサーミ民族への許し難い差別の記録。
コミュニティの外を一歩抜けると異人と呼ばれて瞳が体躯が言葉がそれを定義する。
自分自身の目からは見えないもので他人から自己を決定づけられる理不尽、
生まれてから当たり前のように集団の外側に置かれる側の惨めさ窮屈さ。
その中で生きて、そして逃げてきたクリスティーナ。
己のルーツの轍を幾度も幾度も踏み消して生きる、故郷を悪く言う人生は決して最良ではないだろうが一族との決別の末、欲しいものを決死の思いで掴んできた主人公を、本作は非難も鼓舞もしない。
これは故郷から抜け出した成功譚ではなく、姉妹の生き別れを描いた悔恨の物語でもない、一人の人生の物語だった。
サーミのこともっと知りたくなりました。
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