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ハウス・ジャック・ビルトのタケオのレビュー・感想・評価

ハウス・ジャック・ビルト(2018年製作の映画)
4.6
2011年の「ヒトラー擁護」発言でカンヌを追放されてから7年。長い沈黙を破り、第71回カンヌ国際映画祭で、遂に映画界屈指の問題児ラース•フォン•トリアー監督が完全復活——‼︎‼︎上映されるや否や、人としての'倫理観'を欠いたあまりにも過激な内容から途中退出者が続出。その一方で、上映終了後には6分間の'スタンディング•オベーション'が発生し、賛否両論の大論争を巻き起こした衝撃の問題作だ。本作の主人公ジャック(マット•ディロン)は、建築家を目指すサイコパス青年。ある日、車がパンクしてしまった女性(ユマ•サーマン)を仕方なく助けたはいいが、あまりにも無礼な態度をとり続ける彼女にとうとう我慢できなくなり、ジャッキで撲殺してしまう。これをキッカケに幼い頃から抱えていた殺人衝動に駆られた彼は、アートを創作するかのように凶行を繰り返していく•••。アニメ、写真、絵画とあらゆる映像フォーマットが入り乱れるパワフルな編集や、デヴィッド•ボウイの『Fame』をはじめとしたセンス抜群なミュージック。そして、人の神経を逆なでするような残虐かつ悪趣味極まりない描写に、不謹慎ながらも笑いを誘うシュールな世界観。どのシーンを切りとっても非常に強烈で、しばらくは脳裏に焼き付いて離れそうにないものばかりだ。そして言うまでもなく、主人公のジャックはトリアー監督自身である。本人は「あくまで僕の一部だよ」と否定はしているが、本作の主人公ジャックが殺人を繰り返すことで自らの病的な潔癖症や強迫性障害を解消していく姿は、映画を撮ることで鬱病と向き合ってきたトリアー監督自身と大きく重なるものがある。クライマックスで'ボッティチェリ'の「地獄の見取り図」そのままの世界(ホントにそのまますぎる)が登場するが、そこの案内人ヴァージを演じているのが『ヒトラー 〜最期の12日間〜』(04年)でヒトラーを熱演したブルーノ•ガンツなのも、間違いなくトリアー監督の自虐ネタだ(ネタにするなよ) 。殺人というアート活動を通して「理想の家」を設計しようとするジャックの物語は、『アンチクライスト』(09年)や『ニンフォマニアック』シリーズ(13年)で物議を醸しながらも「理想の映画」を追い求めるトリアー監督のキャリアそのものであり、本作は彼の芸術と思想を否定したカンヌへの•••いや、世界への究極のアンサーなのだ!倫理観に縛られた芸術に興味はねぇ!どうせ地獄へ行くってんなら、俺は自分が撮りたい映画を撮る、ただそれだけだ‼︎「真に魂がこもった作品」というものを久々に鑑賞した気がした•••なんだよ、シビれるじゃねぇか‼︎レイ•チャールズの名曲『Hit The Road Jack』がトリアー監督の自己葛藤にしか聴こえなくなる爆笑のエンディングまで、終始観客を夢中にさせる最高にイカした作品だ‼︎‼︎
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