小

ウィンストン・チャーチル /ヒトラーから世界を救った男の小のレビュー・感想・評価

4.1
史実をエンタメとして上手く脚色した映画。第二次世界大戦がベースで勝者の立場からチャーチルを英雄みたいに描いている点に、直感的には嫌な印象を受けた。でもね、いったん始めた戦争を止めるのが難しいのは何故かを自分的には考えさせられた。好みではないけれど、評価せざるを得ない感じ。

ナチスドイツの猛攻でフランスが陥落寸前、イギリスにも侵略の脅威が迫る。あの「ダンケルクの戦い」で窮地に陥る中、ヒトラーとの和平交渉か徹底抗戦か、究極の選択を迫られるチャーチルの葛藤を描く。

強引で嫌われ者のチャーチルが、らしくなく悩む姿、そして他者に後押しされ勇気をもらって突き進む姿がドラマ的。ラストの演説に向けた高揚感の演出もさすが。でも戦争を善悪はっきり分けて「俺達は悪に屈しないぞ」的な描き方は勝者の物語だよなと、正直少し冷めた気持ちにもなってしまった。

ただ本作について考えたとき、日本がポツダム宣言を受諾した理由を知りたくなった。なぜならば本作の状況に似ているから。戦況は圧倒的に不利でアメリカとの本土決戦も目の前に迫っている。岡田喜八監督の『日本のいちばん長い日』は降伏決断後の駆け引きや事件をスリリングに描いているけれど、降伏か徹底抗戦かをどうやって決断したのだろうか。

ネットでググると、「「スイス諜報網」の日米終戦工作―ポツダム宣言はなぜ受けいれられたか―」という本があることを知り、著者の有馬哲夫氏が自著について語る記事に自分の疑問にこたえる部分があった。
(http://www.shinchosha.co.jp/book/603772/)

<先の戦争を終わらせたのは、原爆投下とソ連の参戦だといわれている。原爆投下だけで充分だったとか、いやソ連の参戦の方が決定的だったと唱える研究者もいる。

 筆者はこのどれにも与しない。原爆投下とソ連の参戦は、必要条件ではあるが、十分条件ではなかったからだ。十分条件は、ポツダム宣言を受諾し、降伏しても国体護持ができるという確信を天皇と重臣たちが持てたことだ。

 事実、昭和二〇年八月一二日の皇族会議で、天皇が連合国に降伏することにすると告げたとき、朝香宮に「講和は賛成だが、国体護持ができなければ、戦争を継続するか」と問われたのに対し「勿論だ」と答えている。つまり、国体護持ができるという確信を天皇や重臣が持てなければ、戦争は続いていたということだ。>

この本は<降伏しても国体護持ができるという確信を天皇と重臣たちが持てた>理由を明らかにするのが主眼だが、<国体護持ができるという確信を天皇や重臣が持てなければ、戦争は続いていた>という部分に惹かれた。何故なら、本作で示されるチャーチルの決断を後押ししたのがこれと同じことだから。

つまりカタチだけでなくアイデンティティーとしてイギリスという国が存続するかどうかが、判断の決め手になっていると思う。ヒトラーの支配下になればそれはありえないし、国の存続のためなら、犠牲もやむを得ない。

人にとって命よりも重要なものはアイデンティティーである、アイデンティティーを失うくらいなら死んだほうがマシなのだ、だから戦争が絶えないのだ、というおぼろげながら知っていたことが腑に落ちてくる。

では、どうすればよいかは本作には示されないけれど、人はアイデンティティーのためなら死をもいとわない存在であるということを深く自覚することが、争いを避けるための第一歩なのかもしれない。

●物語(50%×3.5):1.75
・好みではないけれど、考えさせられるものは好き。

●演技、演出(30%×5.0):1.50
・チャーチルも演じたゲイリー・オールドマンも良く知らないから、演技の凄さについて本当のところは良くわからないけれど、本物に見えた。

●画、音、音楽(20%×4.0):0.80
・雰囲気が良い。
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