horahuki

プリベンジのhorahukiのレビュー・感想・評価

プリベンジ(2016年製作の映画)
3.9
私の赤ちゃんは「痛み」から生まれる…

10月はハロウィン④

お腹の中の赤ちゃんから殺害指令を受けた妊婦さんが、赤ちゃんの父親の死の原因を作った連中にナイフ片手に復讐する「妊娠(pregnant)」+「復讐(revenge)」=『プリベンジ(Prevenge)』な異色復讐ホラー。

ハロウィン用に海外版を用意してたのに、まさかの7日から発売&レンタル開始という良くある凡ミス…😱せめて発売前に見とかないと!ってことで急いで見ました。序盤にハロウィンって言葉は出てくるのだけど、全くハロウィン感なくてNoハロか…😭と思ってたらしっかりクライマックスでハロウィンしてました!というわけでYesハロウィン👍

妊娠すると仕事がなくなる。そんな映画業界(社会全体)に対する監督の想いを直球でぶつけた攻撃的な作風。監督は撮影時妊娠8ヶ月。監督業を諦めていたロウ監督は妊娠を理由にオファーを断ったけれど、妊娠という仕事をする上でのハードルが自分の表現しようとするものの本質になると考え、本作が生まれたみたい。しかも監督だけでなく主演まで務めるという「大丈夫なの?」と心配になってくるほどの気合の入れよう。お腹の膨みで時間的整合性が取れなくなる可能性があるから11日間で撮影したらしい。リアル妊婦さんが殺人鬼役とか初めて見たわ!

更には妊婦さんが抱える孤独や不安や責任が本作の大きなテーマになっている。友達も頼れる人もいない孤独なルースにとって唯一の存在を奪われた絶望は計り知れず、彼への依存度合いがそのまま復讐という殺意の強固さへと変換される。恐らくその殺意に依存することで「彼」を実感するという、ある意味での殺人=愛情表現としての一面を持ち合わせているように考えられるところが彼女の病的な心理を表現している。

普通ならハッピーなはずの妊娠も、祝福してくれる人は誰もおらず、悪意だらけの世界に対して孤独のまま戦わなければならない不安。妊娠で仕事も失った彼女にとって、生まれようとしている赤ちゃんは自分の人生を崩壊させる「怪物」に他ならず、まだ見ぬ未知の存在としてのオカルトが孤独や絶望や不安や復讐心を全て飲み込む器となって、「声」として彼女の中で形作られる。「赤ちゃんはみんなから祝福されてますよ♪」と薄ら寒い胎教音声が流れるラジカセを全力でぶち壊すルースさんの痛々しさと爽快感が凄い!

基本は首をナイフで掻っ切る殺し方なのだけど、レイプしようとしてくるデブのち◯こをチョン切ったり、目ん玉ぶっ刺したり、ボクサー相手に機転をきかせた立ち回りをしたりと、妊婦がいかにして人を殺すかのバリエーションも見応えあり。そして、殺す相手が「親にとって子が如何に怪物なのか」というルースの不安を後押しすることに繋がったり、ロウ監督の主義主張をゴリゴリに押し出すきっかけになっていたりと、そういう面でも面白い。

ラストシーンの狂気はホラー的ハッタリでもあるのだけど、それ以上に青→オレンジへの色彩(心情)変遷に重要な意図を込めた対象の同質化でもあり、それまでとは明確に違う「過去からの“ポジティブ”な決別」かつ、戦っていく覚悟の現れだったのだろうなと思った。妊婦が監督兼主演をするという、側から見たら狂ってるんじゃないかと思われるようなことをロウ監督は成し遂げたわけだけど、そんな「狂気」とも呼べる強い意志が女性の活躍には必要なのだという、賛歌でもあり嘆きでもある力強く厭世的な良いラストだと感じた。でも患者にアンチョビだけを処方するドクターアンチョビは可哀想…😭

ちなみに作中で何度も流れてる映画は『情熱なき犯罪』という34年のクライム映画らしい。物凄い形相の女の人が出てたから見てみたくなった!
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