八木

甘き人生の八木のレビュー・感想・評価

甘き人生(2016年製作の映画)
3.5
普段カステラの上に生クリームにイチゴとチョコソースとバナナを乗っけたような映画を見ているせいで、こういうスルメ系映画を見ると困る。実話をもとにした映画らしいが、元ネタがどういうものか知らないし、映画を見る限りは「子どものころに母を失ったことを受け入れるタイミングを失った男の話」ってだけでなので、本当にこの映画を楽しむには近代イタリア文化(特にサラエヴォ)の予備知識が必要なのかもしれません。
この映画は、主人公が、自分の母が突然いなくなったことについて、「どのように捉えることが最良だったのか」を観客に対して問いかけている映画だと思いました。さらには「行動を起こすことを望めない、それを自覚できない状態において発生した報いについて」の映画だと思いました。
130分のうちほとんどは主人公の生い立ちと、現在の社会生活が破綻しつつあることの説明に使われています。正直これが、エンタメになっているとは思えなくて、僕にとっては長さを感じるものでした。多分、ラストの展開に向けて必要な要素を必要なだけ配置している時間でもあり、緊張感は持続していて、シーンが変わればそのブロックについて意味を考える楽しみもありました。でも、楽しくはなかったのですよ、正直言いまして。
ある一人の人生について丁寧に丁寧に説明を積み重ねると、別に映画に限ったもんでもないですが、「ただそこに人がいる」という以外はもうどうしようもない状態になると思います。母を突然亡くしたという表現に、子供目線を徹底していて、この映画では一切母の死体は登場しません。死の原因については、ストーリーで言葉として「心筋梗塞」が出てくる以外は何もわからず、いろいろな良くない想像をする余地を作っています。母が死んだことについては、観客を巻き込んで一切実感を得られないつくりになっていて、事実を知るラストでも、衝撃があるわけではありません。「まあそんなもんだろ」って感じです。ただ、事実ってそういうものだし「本当のことを知る」ってのはそんなもんなのです。
最後の展開を見ながら、実際に何か事件が起こったときに大体の人は、結果がどう変わるもんでもないと知りながら「なぜ彼/彼女はそんなことをしたのか」と原因を追究しようとする人の自然な心の動きについて考えていました。それはやはり、「本当のことであれば受け入れられ、そののちの前に進むことができる」という、生物が生存しようとするところに根差した欲求のような気がしていました。「本当のこと」というのは別に事実に限ったもんでなく、自分が納得できる形であることも重要じゃないでしょうか。そこで、前を向くことを自ら拒絶し続けた場合、その未来を自分でいくらか閉ざしてしまうことになる。もちろん、そこにはアンラッキーという要素もあるわけですが。
僕はとりあえず、救いのある話に見えたので、良かったと思いました。ただ、面白くはなかったです(正直)。
八木

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