あまのかぐや

ザ・メイヤー 特別市民のあまのかぐやのネタバレレビュー・内容・結末

ザ・メイヤー 特別市民(2016年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

久しぶりに韓国映画の夕べ、です。劇場公開見逃した映画のソフトが続々と出ています。急げ急げ!



ジャケ写のミンシクの顔面力たるやっ(笑)「ミンシク先生!」とつい呼びたくなりますが、このミンシクは「先生」で間違いありません。

今回のミンシク先生は、現ソウル市長で、史上初の三期目当選をかけて立候補するジョング市長。
ここまで聞くと「アシュラ」でファン・ジョンミン演じた名キャラクター「パク・ソンぺ市長」を思い出しますが、それほどぶっ飛んでいませんでした。

さらに、市長の右腕、選挙対策本部長の市議役が、「コクソン」のお巡りさん、クァク・ドオゥンと聞いたら期待しちゃいます。

韓国映画特有のノアール感や、どろどろポリティカルサスペンスを期待すると、拍子抜けなぐらい、実はまっとうで堅実なつくり。いってみれば地味。暗殺も拷問も刃物もありませんが、それだけにリアルな世界観に思えます。

広告代理店から、おかかえクリエーター引き抜いて動画宣伝も派手だし、選挙カーを乗り付けてエグザイルかその妹分グループのように若いダンサーが歌い踊る映像をなんどか目にしたことがありますが、なんというか…政治がエンターテイメントなんですよね。

冒頭のライブ会場シーン。ボーカルと掛け合いで現代の政治のあかんところを歌う飛び入りラッパーが若者の心をつかむ歌詞で盛り上がる。そのあとの政治トークショー。50代余裕でオーバーのミンシクのラップ!今回のミンシクはまた一味ちがうぞ。わくわく。善良で真摯な眼差しと、若者との掛け合いトーク。若い記者のバッサリ意見も受け止める。市長第三期めにかける意気込みを語るカリスマ性に、これもまた「演出とはいえ(日本の政治家ではありえない)なんという高等テク」と唸ってしまうのです。

ジョング市長に対抗する民間出身の女性議員のマスコミ扇動テク(わざと記者会見でブラウスの胸元見せて拡散と動画再生回数稼ぐ、みたいな)も、これまた日本ではありえないあからさま過ぎて笑っちゃうし、…でも、まぁやはりパフォーマンスありきというところなんですかね。

後半になって市長の夫が選挙戦がんばっている中で高級美術品を無造作に買ってワイドショーを賑わす能天気妻や、娘にある事件の罪をなすりつけたり、対抗勢力の息子の大麻吸引疑惑でっちあげなど、家族を巻き込んで、これまた、もみ消し、ねつ造、マスコミ操作など、もうぐちゃぐちゃ。なんだか奥さんの件についてはどこかに国のトップを思わす案件で「うわあ、これって…うわあ…アキ(以下略)」と小さく声がでちゃいました。

なんというか、これはほんとにキャスティングの勝利なんですが、ミンシクが良いんです。心をつかむ演説やパフォーマンスの説得力、カリスマ性。そして裏の邪悪さよりもそのもうひとつ裏にある切なさがぐっとクル。汚いことわかっているし、何度も辛そうな潰れそうな顔を見せるんですが、それでも切れたりしない。もう止まれない列車に乗ってしまっている悲壮感漂うミンシクの演技が、この昼のワイドショーをみてるような下世話でしょーもない物語を最後まで完走させたと思う。

表に出ない部分で無表情にモラルなしの計略、賄賂、スキャンダルを操り、天災さえも選挙のネタにつかい(ああ…)、選挙戦の暗部を担うクァク・ドオゥン演じるヒョスク議員が、これまた濃い!生活感のない自宅、情報屋使う!趣味は靴磨き!…みたいな!しかし、そのラストには「その展開ありかい!」と思いました。選挙戦中に、参謀の死、家族の逮捕なんて、もう真っ黒すぎじゃないですか!

もう一人の主役はラップ会場でスカウトされた新聞学科出身の若い広報マンの女の子(シムウンギョン)。その先輩で、市長の1期目にかかわっていたというやり手女性記者も、あからさまに「女」を使っていないところがよい。(裏ではなんかあったかもしれないけど)彼女らは、若いイケメン俳優がキャスティングされていても問題ない役だったと思う。それやっちゃう?!」と市長や参謀の行動に疑問に思いながらも、トップからの直接の信頼を餌にどんどん深みにはまって抜けられなくなる。パワハラというのか。「飴、飴、飴、鞭」とバランス具合が、きっとジョング市長がこれまで市民に選ばれてきた所以、また優秀な参謀が残った所以なのだろう。

パワハラといえば、対抗勢力の女議員の秘書のような若い女性が、綿密な選挙対策をぶっちぎってバカ息子を応援メンバーに入れたとき、ついにブチ切れて「やめます!」ってなってたけどね。そこでどんなアコギなことをしても抜けさせないのが、やはりダテに二期市長やり通してないぞ、というジョング市長の貫禄でしょう。

韓国映画ならではの、ものを食うシーンが何箇所かあります。これが韓国映画の楽しみでもありますが。市長の昔なじみの焼肉屋に部下を連れて行く(ドウォンより下っ端の若い部下で、汚れ仕事担当)、昔馴染みの女性記者をつれていく日本料理屋(北海道産ウニを食べてた)。日本料理屋で納豆を海苔で巻いて「うまいぞ」と食べさせようとすると「足みたいな匂いがして嫌い」と突っぱねる女性記者と、サンチュに巻いたカルビを口いっぱい食べさせられる若い部下。なんだか、今作の食べシーンは、とても象徴的でした。

ラストはサンチュ巻きカルビを自らの口に押し込むミンシクのどアップ。いろんなものを押し込み、無表情で咀嚼する。とても苦しい。これから先、彼の選んだ人生、生きざまへの覚悟が切ないまなざしに現れている名シーンかと。

「韓国の政界ってエグイ」って、以前ならドン引きしていたでしょうけど、実際、昨今の身近で、韓国映画に負けずとも劣らない、エグいポリティカルドラマを見せられているわけで…国民が知らないと思っているのでしょうかね。国内の政治さえ「まあ100%クリーンなんて夢のまた夢よね、後ろ暗いよね、ぜったい」という至極冷めた見方をしてしまっているんですね、きっと。「パク・ソンぺ市長」ぐらいめちゃくちゃ血まみれの突き抜けた行動を見せてくれないと、どうもリアル過ぎて、ジョング市長の行動が普通、むしろ痛みを感じてるだけ善良」って思えてしまうなんて、と、いっそ薄ら寒く感じてしまうのです。


※冒頭、大人気の、マ・ドンソク兄貴が本人役でカメオ(?!)出演していますのでお見逃しなく!
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