140字プロレス鶴見辰吾ジラ

女は二度決断するの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

女は二度決断する(2017年製作の映画)
3.8
GW映画12番勝負”第4戦”
※GW中に800レビューに届くのか!?

”質感”

テロ事件により、夫と息子を失った妻。
悲愴に生きるのか?
復讐のために闘うのか?

映画的短絡性に収まることのないサスペンス。

今作を見て大きく驚いたのは、映画の世界のリアルな質感である。手持ちカメラによる撮影によりドキュメンタリー映画を見ているような錯覚に陥ることがしばしばある。特に冒頭の主人公と夫の結婚式のシーンは、刑務所に服役した夫とそれを更改させたことが窺え、さらに役者の演技も素朴かつリアルなやんちゃ性が垣間見えるのが何とも言えない質感を提供している。近年の映画だと、シャーロット・ランプリング主演の「さざなみ」と同等の域のフィクションでありながらドキュメンタリーの質感を残している。

「無残なテロにより夫と息子を失った妻の決断は?」というエピソード導入から、言ってしまえば「コマンドー」級の振り切ったアクションにもできるのだが、徹底的な社会派サスペンスに乗っ取り、リアルでスリリングな法廷劇を繰り出し、移民問題・差別問題に向き合う社会派サスペンスのパワーハウス性を帯びている。

上記であげた社会派サスペンスのパワーハウス性が際立っているのが、テロ事件というキーを爆破シーンや死体損壊シーンを映すことなく、状況描写と説明セリフで描き切っているところにある。主人公が夫と息子を迎えに行くシーンでの日常がその瞬間に切り裂かれる悲痛性や法廷での息子の事件により生じた肉体的ダメージを淡々と説明するシーンは素晴らしかった。爆破シーンや遺体のデティールなどは排して、研ぎ澄まされたような質感から演出された法廷劇のフェイズもまた素晴らしい。ドイツの検察側vs弁護側の言葉による銃撃戦にような緊張感を放つ法廷での一進一退、証拠とデータの交戦状態は、会話劇でありながらいっさいの緊張感をそこに集めているように思え、さらに今作のリアリティある質感の構築に大きく生きてきている。そして「ドイツの司法制度」の信頼性と中立性と非感情性が際立たせることにも一役買っていて、衝撃度の高さを見せてくる。

アクションは排されているものの、主演のダイアン・クルーガーのキュートであり強気であり、そして悲壮感と反作用の怒りの表情からすべて推進力の強い女性像を見事に体現していて、上記の事件→事後→法廷での描写で上映時間の6割以上を占めているものの、一瞬の所作の質感からスイッチの入った女性戦士としてのクライマックスの葛藤と決断は圧巻だった。「海」と名づけられた最終フェイズは、ラストシーンとエンディングテーマの2つの意味での解放をこの物語の救済として、脳裏に焼き付けるエネルギーを内包していた。