茜

ある女流作家の罪と罰の茜のネタバレレビュー・内容・結末

ある女流作家の罪と罰(2018年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

リー・イスラエルという作家の告白自伝を元にしたノンフィクション映画。
このリーという人は、著名人の手紙を偽造して売る事でお金儲けをするという私文書偽造の罪に手を染めた人。
ニューヨークの街並みやBGMとして流れるジャズも心地よく、非常に雰囲気の良い映画でしたが、このリー・イスラエルという人物に対する心証は分かれそう。

同僚の若い女性がリーに対して「あんな風に(リーみたいに)なる前に殺して」みたいな嫌味を言うと「今すぐ殺してやろうか?」みたいな返しをサラッとしちゃうとことかは好きなんだけど、やっぱりクセのある人物だなぁとは思う。
職場ではお酒を飲みながら仕事をするなど勤務態度も悪く、それを注意されても聞き入れないからクビになるも、アパートの管理人には「年齢のせいでクビを切られた」と話す。
他にも売れっ子作家をけなしたり、グルの友人に対して「あんたの人生みたいに失敗しないで」という酷い言葉を投げつけたりする等々、随所で傲慢な言葉が目に付く人。
自分自身は本が売れずに稼ぎもなく、仕事もクビになり飼い猫の治療費も払えない、そのうえアルコール依存症。
自分の現状は棚に上げて、他人に対しては嫌味や非難ばかりする、無駄に自己評価の高い勘違い系の人という印象。

でもそんな彼女が私文書偽造に手を染めてからは、それまでが嘘のようにイキイキとした表情になる。
確かに著名人毎に異なるタイプライターを用意したり、紙を劣化させて本物に見せる過程とかは正直凄く楽しそう。
そして何より自伝作家だった彼女にとって、著名人の手紙を偽造するという行為は得意分野であり、それが見事に高値で売れる事によって、まるで自身の作品を認められたかのような錯覚を起こさせる。
彼女にとって私文書偽造は金儲けの手段であると同時に、作家としての自信を維持出来るクリエイティブな活動だったんだろうな。

彼女には犯罪を手助けするジャックという友人が居て、リーみたいな性格の悪い人とずっと無条件で一緒に居てくれる存在なんだけど、結局ジャックの密告によりリーの罪はバレてしまう。
自分の罪や愚かさに気付いたリーが裁判官に対して述べる言葉が印象深くて、正直この人の性格ならいいように取り繕ってるのかと疑う気持ちもなくはなかったけど、最後にジャックと会話するシーンを観てあれは本心だったんだなと思った。
地位を得たり犯罪に手を染めてまで金儲けをするよりも、もっと大切な存在に気付いたリーのジャックや飼い猫に対する思いが、原題の「Can You Ever Forgive Me?」に繋がるんだなと感じる。

随所に都会の影に埋もれて生きる人のもがきを感じたりもして、切なくもありつつ意外と良い余韻の残る映画だった。
茜