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共犯者たちの小のレビュー・感想・評価

共犯者たち(2017年製作の映画)
4.0
イ・ミョンバク(李明博)とパク・クネ(朴槿恵)の韓国政権による約9年間の言論弾圧の実態、これがフィクションでなくドキュメンタリーというのが凄い。

公共放送局KBSや公営放送局MBCをターゲットに、メディアへ露骨に介入、政権に批判的な経営陣は排除され、調査報道チームは解散、記者たちは非制作部門へと追いやられ、両局は政府発表を報じるだけの「広報機関」となる。

この民主主義の重大な危機に対し、両局を解雇されたプロデューサーや記者が、市民の支援を受け調査報道のニュースサイトを運営する「ニュース打破」を立ち上げる。MBCを不当解雇された本作のチェ・スンホ監督もその1人。

率直に酷いと思うけれど、映画を観た人なら誰もが「日本はどうだろう?」と思うのではないか。「あー、よかった」なのか、それとも「明日は我が身」なのか。

個人的には似たような方向に進んでいる気がしてならない。韓国のようにあからさまではないのは、日本人は良くも悪くも波風を立てることが嫌いで、空気を読むこと、つまり「忖度」することによって上意を汲み取るから権力が介入する必要がないからではないか。

こうしたことを考えるうえで、是非観たいのが東海地方限定で放送されたテレビ番組「さよならテレビ」だ。『ホームレス理事長』、『ヤクザと憲法』といったドキュメンタリー映画の傑作を生みだし続けている東海テレビが制作したドキュメンタリーで、その取材対象は東海テレビ報道部。テレビの現状をさらけ出すような内容になっているらしい。
(http://bunshun.jp/articles/-/9624)

同番組を紹介する文春オンラインの記事で自分が気になったのは次の部分。

<実はこのドキュメンタリーの中で個人的には最大の驚きだったのが、悪役とも言える報道部長の存在だ。この人、どこかで見たことがあるな、と思っていたら、ハタと気付いた。この報道部長は、東海テレビのドキュメンタリー映画の傑作「平成ジレンマ」や「死刑弁護人」を監督した斎藤潤一氏なのだ。つまり、表で報じられるニュースに疑問を持ち、別の角度から捉えていく東海テレビ映画のお家芸とも呼べる手法を、阿武野プロデューサーとともに作った立役者だ。

そういうキャリアの持ち主が、報道部長となり(つまり会社で出世し)、「視聴率を獲れ」とか「上からやれと言われたらサラリーマンなんだから従わないといけない」とか、事実上クビの派遣社員に「卒業」などと言ってしまうような、典型的なメディア企業の管理職として生きている。斎藤部長は、いかなる思いでニュースを放送しているのか。(後略)>

この文章の筆者によれば、その答えは聞けていないらしい。しかし、こうしたことは彼個人の問題ではなく、サラリーマン全般にグサリとくることなのではないか。つまり、人は権力との距離が近づくにつれ、自分を権力と同化していくのだ。反抗してきた者が反抗される立場になると、守勢における自分の弱さを否認するため「上に従え」と自分の都合の良いように発想を転換してしまうのだ。

ひとたび自分の方向を転換してしまったら、自己の弱さの否認を強化するために、より進んで「上に従う」ようになるだろう。一方、方向転換できない者はどうなるか。組織を飛び出したり、自分を追い詰めたりする人もいるだろうけど、多くは表面上は転換しつつも「こんな組織はクソ」と蔑むことで組織と自分を切り離し合理化するだけにとどまるのかもしれない。

そんな合理化の余裕なく物理的に組織から切り離されても自らの信念に従い行動する韓国のジャーナリストたちと、映画を観ているサラリーマンのオッサンの自分。果たしてどちらが幸せなのか。「韓国ひどいな、でも自分はどうなの?」という国の問題もさることながら自分にも刺さる映画だったかな。

●物語:4.0
・ファクツ、取材が凄い。

●他 :4.0
・編集も良かった気が…。
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