河豚川ポンズ

クリード 炎の宿敵の河豚川ポンズのネタバレレビュー・内容・結末

クリード 炎の宿敵(2018年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

追いかけてきた父親の背中を超えて走り出していく映画。
もしここからさらに続編があるとしたら、ロッキーは亡くなりそう…

リッキー・コンラン(アンソニー・ベリュー)との死闘の末に惜しくも敗れたアドニス・クリード(マイケル・B・ジョーダン)は、その後立て続けに6連勝を重ね、ヘビー級チャンピオンへの挑戦権を獲得。
現チャンピオンのダニー・ウィーラー(アンドレ・ウォード)は、かつて対戦しアドニスはあっけなく敗北してしまうが、今の彼は違う。
成長したアドニスの力で彼は見事KO勝ちを果たし、ついにヘビー級チャンピオンのベルトを獲得する。
この勝利を機に今まで支えてくれた恋人のビアンカ(テッサ・トンプソン)にプロポーズし、人生最高のピークを迎えていたアドニス。
しかしそこに突然アドニスに挑戦状を叩きつける男たちがいた。
彼らはドラゴ親子、かつてアドニスの父親のアポロ・クリード(カール・ウェザース)をリング上で殺した張本人のイワン・ドラゴ(ドルフ・ラングレン)。
そして彼が持てる知識と技術を受け継いだ息子のヴィクター・ドラゴ(フローリアン・ムンテアヌ)だった。
世間も世代を超えて宿敵とのマッチもあって実現を望む声は大きかったが、ロッキー(シルベスター・スタローン)はプロモーターが仕組んだ金儲けだ、挑発に乗るなとアドニスに試合を受けないようにと諫める。
しかし、父親を殺し、母親と自分の人生を狂わせた張本人を前にしてアドニスが黙っていられるはずもなく、アドニスはロッキーと決別し、ヴィクター・ドラゴとの戦いに挑むのだった。

やっぱり今回も超激アツの男泣き映画に仕上げてきた!
前回は「世界に対する『自分という存在』の証明・肯定」が大きなテーマであり、アドニスがリングに立ち続ける大きな原動力だった。
一方で今作はその向こう側、チャンプになってしまったがゆえに闘う理由を見失ってしまったアドニスの前に、30年間復讐のみを考えて生きてきたドラゴ親子が立ちはだかる。
そこでアドニスは闘う理由を再び父親アポロの幻影を追い求めるが、それもむなしく完膚なきまでに惨敗してしまう。
そこで彼が立ち返るのは父の影を追うのではない、アポロの伝説の延長線上でもない、紛れもない「アドニス・クリード」彼自身の伝説、そしてアマーラの父親としての道も歩んでいく覚悟を見せる。
だからこそ、彼がヴィクターとの再戦でダウンした時もその目に映るのは、1の時のようなリングへと呼び戻すようなアポロのイメージではなく、父親としてこれから共に歩んでいくビアンカとアマーラの姿だった。
言ってしまえばもう親離れみたいなもんですが、こんな劇的な胸の熱くなる親離れなんてなかなか無いですよ。
そしてそれと対比されるのが父親としてのロッキーの立ち位置、そして宿敵ドラゴ親子の在り方。
息子と距離を置き続けてきた彼はアドニスとビアンカの子供が生まれることを機に、自分の父親としての在り方を振り返り見つめ直す。
そしてアドニスの試合を見届け、自分の教えられることはもうないという彼が最後に息子のロバートに会いに行くわけだけど、もうそれって終活じゃないですか…
お願いだからロッキーもスタローンも死んでくれるなよ…

今回でたぶん多くの人がファンになったというか、とても好意的に見られたのはドラゴ親子のはず。
ロッキーに敗れ妻に見捨てられ、30年間世間から煮え湯を飲まされ続け、それでも復讐の機会を虎視眈々と待ち続けたイワン・ドラゴ。
「ロッキー4/炎の友情」のころのマシーンのような無機質さではなく、行き場のない怒りや憎しみを抱えてロッキーの前に現れる。
最初は完全なヒールとして登場したけれど終わるころには、もう一人のロッキーというか、彼らもアドニスたちと同じように、自分たちの存在をリングの上で全世界に証明して見せるために戦ってきたのだと分かる。
最後のイワンがタオルを投げ込むところなんて涙なしで見れない。
きっとあのままKOされてれば、ヴィクターはその負けを背負って今までの自分とまた同じ憎しみを抱えたまま生きることになる。
その生き方の辛さを知っているイワンだからこそ、アドニスとの再戦でも母親に見捨てられもう居場所のないであろうヴィクターに、そのタオルを投げ込むことでヴィクターを肯定し、その敗北を2人で背負っていくことを決めた。
「ロッキー4」でのロッキーが、そして今作の劇中でのリトル・デュークが出来なかったことを、イワンは最後の最後に選ぶことが出来たのだ。

「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」が「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」に新たなコンテクストを与えたように、この映画も「ロッキー4」にドラゴ親子の物語のスタート地点という意味合いを付与した。
個人的に「ロッキー4」ってちょっとおちゃらけたというか、劇中歌多めで娯楽色の強いものだと思ってたけど、この映画でいい意味で見方が変わってしまった。
アポロがジェームズ・ブラウン呼んでノリノリで入場してきたみたいに、アドニスもそういう入場したらどうしようとちょっと心配に思ってたけど、さすがにその心配の必要はなかったみたいで良かったな。