emi

家へ帰ろうのemiのネタバレレビュー・内容・結末

家へ帰ろう(2017年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

アルゼンチンに住む仕立屋アブラハムは、自らを老人ホームに入れようとする家族の目を盗み1着のスーツを持って旅に出る。70年前ホロコーストから命を救ってくれたポーランドの親友の元へ…原題『El último traje(最後のスーツ)』

偏屈お爺ちゃんのロードムービー。派手な演出はないがそこがいい。目的地に近づくほど彼のトラウマが詳らかになっていく。足を引きずり悪化する病と戦いながら、夢現に回想が融け込んで自然と感情移入してしまう。道中出会う人々の優しさが心にしみる。原題も良いが邦題もなかなか、名作でした。

一歩たりともドイツに足をつけずポーランドに行きたいというアブラハムを多くの人が笑うけど、声をかけてくれたドイツの学者は彼の感じてきた恐怖や苦痛の一部を垣間見たのか、何度酷い態度を取られようとも手を差し伸べようとしてくれる。駅のホームで自身の服を道に敷き、アブラハムにその上を歩かせるシーンはとても印象的だった。そしてその服をきちんと畳んで返し、彼女と言葉を交わした後、電車の乗り換えのために今度は自ら地に足をつけて歩き出す。彼は学者とのやりとりを通して、辛い憎しみに少しだけ整理をつけることができたのかな。
憎み、怯え、嫌っていた、その気持ちは消える事はないだろうけど、ドイツ人というだけで当事者でなくとも過去の過ちについて語るドイツ学者や、ホロコーストを忘れないよう腕に数字の入れ墨を入れた末娘。アブラハムの足となってくれた飛行機で隣に座った若者、宿の女性スタッフ、看護師…多くの人達が彼の意思に寄り添ってくれた。偏屈で頑固なアブラハムだけど、きっとその優しさはひしひしと感じてると思う。
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