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ワンダーランド北朝鮮の小のレビュー・感想・評価

ワンダーランド北朝鮮(2016年製作の映画)
4.2
北朝鮮に暮らす人々を取材したドキュメンタリーということで、そこにはフィクションの世界で描かれるような衝撃的な事実や秘密が描かれているのではないか、とつい期待してしまう。

しかしそんなことは全くなく、普通の人々が映し出される。知らない国のことを知るために我慢と思い観ていても、だんだん退屈になってくる。よくよく考えれば、映画はもちろん北朝鮮当局の検閲を受ける。だから北朝鮮にとって都合の悪いこと、つまり私が面白いと思うことが描かれているわけがないのだ。

そう考えているうちに、ハッとした。北朝鮮が検閲した映画は、何が隠されているかを観るのではなく、何が映し出されているかを観るべきなのだと。つまり、彼らが外に出しても良いと認めた映像は彼らが意図するもののほかに、彼らの無意識が反映されているはず。それがわかれば、北朝鮮の姿が見えてくるのではないかと思ってきた。

感じたことをつれづれなるままに書いてみる。
①人々はとにかく将軍様を崇拝している、感謝の気持ちを述べている。

②実際のモデルをベースに顔は別の美人に代えて描く画家に象徴されるように、見栄を張りたいお国柄なのかもしれない。

③そんな国が、貧しい農村の家で太陽光パネルだけでなく糞尿によるメタンガスを燃料にしているなんてことを伝える映像をよく許したよね。

④小学生数人が自発的に将軍様を称える歌を歌い、それを聞いている他の彼らは明らかに別の何かを見ていた。また、2~3歳くらいの児童が保育士の先生がいくら声をかけてもニコリともせず無表情で、反応しなかった。こんな映像カットしないなんて、ちょっとタガが緩んでいるのかしら(このほかにも軍の女性が「聞かないで」と言いながら、いろいろ話すシーンあり)。

⑤ラストの方で冒頭にも出てきたプール施設職員の男性が南北統一したいかを聞かれ、したいと答えていた。しかし、その一番の理由は民族統一というよりも、暮らし向きを改善したいからと。統一によっていろいろな問題はあるだろうけれどまずは経済、つまりメシを何とかしたいみたいな。随分、はっきり言っちゃうんだね…。

この他、トークイベントで知ったこと。
⑥プール施設にあった金正日・第2代最高指導者の蝋(?)人形に人々がお辞儀をしていたけれど、普通は撮影が許されないはずなのに許された。

⑦監督がドイツに帰った後に、編集した映像を観た当局からとあるシーンをカットしてくれと言われたけれど、監督が「お金がなくてこれ以上の編集作業は無理」と答えたら許された。

こうしたことから私が思ったこと。北朝鮮は経済がのっぴきならないところまで疲弊してきてもはや限界、統率力もかなり緩んできている。南北統一の動きはSOSだろう。ただし、金日成、金正日、金正恩と続く最高指導者は国民のアイデンティティーであるから「体制保証」は譲れないのだ、と。

この状態って、終戦直前の日本と良く似ている気がする。絶体絶命に追い込まれた日本は「一億玉砕」をちらつかせつつ、最後は「国体護持」できるからと降伏した。

<先の戦争を終わらせたのは、原爆投下とソ連の参戦だといわれている。原爆投下だけで充分だったとか、いやソ連の参戦の方が決定的だったと唱える研究者もいる。

 筆者はこのどれにも与しない。原爆投下とソ連の参戦は、必要条件ではあるが、十分条件ではなかったからだ。十分条件は、ポツダム宣言を受諾し、降伏しても国体護持ができるという確信を天皇と重臣たちが持てたことだ。

 事実、昭和二〇年八月一二日の皇族会議で、天皇が連合国に降伏することにすると告げたとき、朝香宮に「講和は賛成だが、国体護持ができなければ、戦争を継続するか」と問われたのに対し「勿論だ」と答えている。つまり、国体護持ができるという確信を天皇や重臣が持てなければ、戦争は続いていたということだ。>
(「「スイス諜報網」の日米終戦工作―ポツダム宣言はなぜ受けいれられたか―」の著者の有馬哲夫氏が自著について語る記事より。)
(http://www.shinchosha.co.jp/book/603772/)

北朝鮮は降伏するわけではないが、このままいけば国家運営が成り立たなくなるだろう。シンガポールでの米朝首脳会談で宿泊費の外貨さえない北朝鮮の経済は破綻していることは明らかで既に非核化の必要条件は揃っているのではないか。十分条件は「体制保証」。アメリカはそれをわかっているから、非核化の見返りに「体制保証」に言及したのではないか。そう言わなければ日本の「一億玉砕」のように、核兵器が使用されかねないからと。

●物語(50%×4.5):2.25
・結構頑張って取材したのではないか、と。

●演技、演出(30%×4.0):1.20
・編集はまずまずだと思う。そして検閲って最高の演出なのかもしれない。

●画、音、音楽(20%×3.5):0.70
・いろいろ良く撮れている気がする。
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