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バンクシーを盗んだ男のneroのレビュー・感想・評価

バンクシーを盗んだ男(2017年製作の映画)
3.5
昨日観てきて、今日感想を書こうとしたら、サザビーズでのシュレッダー仕掛けのニュースが流れてきて、いかにもバンクシーらしいアイロニーだなあと笑ってしまった。バッテリー切れか途中でぶら下がったままなのがまたなんとも・・・。本人は床にハラハラと散らばるさまを予想していたと思うよ。(気になる方は「バンクシー シュレッダー」などで検索してください)
場にあって、ときに上書きされ、消し去られ、あるいは風雨にさらされて消滅することまで含んでの自分のグラフィティの存在意義を強烈に主張したプロテストパフォーマンスだった。まあ、更に価値が上がってしまうという結果は、マーケットの”欲”の方が一枚上手だったと言えるかもしれないが。


総延長700kmとも言われるパレスチナの巨大な分断壁に、各国のグラフィティライター達が集合し、抗議の意思表現として多くのメッセージを残している。なお、あの巨大顔写真はフランスのJRによるものらしい。「顔たち、ところどころ」を観たばかりだったので、印象の違いに驚かされた。  、
中でもやはりバンクシーは特異なのだろう。発想はシンプルでも表現としての洗練さを備え、皮肉をこめたプロテストメッセージを見せてくれている。2005年以降、分断壁に十数点描いているはずだが、それらは映画ではほとんど観られない。もう消されてしまったのかもしれない。

映画では、ベツレヘムの建物の壁に描かれたバンクシーのグラフィティ「ロバと兵士」を切り出し、輸送して、美術市場に流すことに加担した一人のタクシー運転手(彼のキャラクターが最高!)をキーに、パレスチナの現実、”芸術”の欺瞞、人の愚かさと逞しさ、そんなものが渾然と表出される。場の意味、共有と所有、価値と市場、表現とビジネス・・・バンクシーなら笑い飛ばすかもしれないそういったものだ。むしろ、その”作品”に如何にして”価値”が付加されたか、キース・ヘリングの事例まで引いて描いているあたりは、美術市場への皮肉でもあるのだろう。
自分には、何度か登場する、バンクシーの情報や二次制作で商売している親父の強かさが好ましいし、彼のそのスタンスこそがバンクシーの意図を体現していると思われた。

件の「ロバと兵士」はオークション不調で倉庫に眠っているという。今回のサザビーズ事件がもうちょっと早ければ最高の締めになっただろうに、惜しかったねえ。
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