ヨーク

バハールの涙のヨークのレビュー・感想・評価

バハールの涙(2018年製作の映画)
3.8
実際に起こったこと(しかも割と最近)を題材にしながらも登場人物とその人物たちの物語は創作、という実に感想が難しい作品。
劇映画としても結構面白いのだが、ベースとなる現実がある以上あぁ面白かったいい映画だっただけで終わることは出来ないし、またそれだけでは終わらせないよ、という意図も感じる。その辺のバランス感覚が素晴らしい作品だった。
実際にこの映画のプロットをもっとヒロイックにもっとエンタメ的に描くことは可能なはずだ。だけどあくまでも気持ちの良いアクションシーンや格好いい構図なんかはできるだけ控えめにした演出が意図的になされてると思う。分かりやすい例としては回想シーンだ。ISと戦う女戦士のバハールの過去はセリフの端々から察することは出来るので実際に映像として細かい描写をしなくても観客はバハールの心情についていけると思うのだが、作中での回想シーンはかなり長めにがっつりとバハールが戦うための動機を描き出す。その過去シーンを削ってISとの戦いを増し増しにした方がエンタメ的には正解なんだろうがそうはしない。中盤から後半にかけて観客としてはかったるいなぁと思うシーンが続くのだがむしろこの映画の製作意図として重要なのはそこで、観客がこんなもの観たくないなと思うことが映画ではなく現実で起こっているんだよと知らしめるためになくてはならないシーンなのだろうと思う。
作り話として出来が良すぎると観客は夢の中で満足しちゃうし、余りにも説教臭すぎると誰も見てくれない。そこのバランスはかなり良く出来ていた映画だと思う。面白いとか面白いではなくてこういうことがあり得るのだと知るためだけでも観る価値はある映画だと思う。
あと戦闘シーンは劇伴の良さもあって素晴らしい緊張感だった。
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