あまのかぐや

麻薬王のあまのかぐやのレビュー・感想・評価

麻薬王(2017年製作の映画)
3.8
NETFLIXオリジナルってのものわかる。
これはかなり危ない。そして日本では公開されないんだろうなぁ、危なすぎるわ、いろいろ。

『ウルフオブウォールストリート』見たときぐらい消耗した。
けど、すごく面白かった。しかも主演がソン・ガンホですよー。

アメリカのマフィアもの、日本のヤクザ抗争もの、最近のメキシコ麻薬カルテルもの。裏社会ものっていろいろあるけど韓国映画ならばこうじゃ!ドーン!とばかりに対抗して、70年代の韓国麻薬王キム・ジョンアの半生。

最近、韓国映画を観ることで、70年代から80年代の民主化運動について知る機会がありましたが、この話の舞台の釜山にもその波はきていて、それまでも盛り込んだ上での麻薬王の人生浮き沈みは、劇的で、見ごたえがありました。

韓国映画らしい脚色に合わせて、70年代の街や店や車、ファッションもだけど、サントラが最高。洋楽のディスコサウンドに混ざって歌謡曲もごった煮風にぶちこむ絶妙なダサさ。

それに加えて新鮮だったのが、この麻薬王の顧客が日本がメインなものですから、外からみた当時の不思議ニッポン(主に裏社会)のデフォルメも楽しい。神戸とか大阪とか、魔都だわー。

ヒロポン精製のシーンが何度も出てきますが、出るたび「おおおブレイキングバッド」と思った。

前半の、いつもの飄々とした気のいいガンホが演じる主人公・ジョンア。瀬どりの密輸ビジネスの使いっ走りから手を染めていき、政治の裏・真っ黒ビジネス界の頂点まで上り詰めるのですが、冒頭の家族の一員、ご近所さんやいとこの中での描写があり、田舎のおじちゃんが、どんどん流れにのってヤバい方向に向かっていく物語が、ただ苛烈なだけじゃなくて、ユルかったり激しかったり、壮絶だったり笑わせにきたり、なんかこういう韓国映画のエンタメテンポって、すごく好み。

釜山の有力者の名前に名を連ね、政治にも関わるジョンア。この時代、陰も陽も頂点に上る人は何かしら悪いことしてんだな、っていう気がしてきちゃうよね。

政治におもねる悪はゆるさねぇ、って検事の役のイケメン(チョ・ジョンソク)が良いスパイスになってた。

後半、独裁政権が傾いてくる下り坂展開、坂を落ちていく疾走感。チョ・ウジンの浴槽バトルがピークと思いきや、その先のガンホのダークな熱演が、前半の緩さもあって、とても良かった。デモの様子がちょっとしょぼい気もしたけど、でもきっとこんな感じだったよね、大都市の近郊の町々では。社会も組織も沈みゆく船で一瞬も目が離せないぐらい。それにともない追い詰められていくジョンア自身も商売道具の麻薬に手を染め堕ちていく。

麻薬ビジネスやる人間は麻薬に手をだしちゃいかんよね。従兄弟が手を出して堕ちていく様子、それを見るジョンアのビビりが怖かったけど、結局最後にはジョンア自身も…。

まさにガンホ7変化で、どれもうまいんだけど、ラスト近くの薬物依存進んできた顔がね、豪邸に籠城して不安感と焦燥感と幻覚の中で、完全に薬中の顔になって猟銃を乱射。ディカプリオもかくやとばかりの凄味と哀れさで心臓わしづかみです。

結局生き延びたジョンアの告発で、旧政権の権力は一網打尽されたのでした、という韓国あるあるなラストは尻すぼみっぽかったけど、でもこれこそが政権かわるごとに一掃されてきたリアルさがあります。

監督が「インサイダー」の人なんだな。インサイダーも面白かったけど、これもかなり好き。DVD化してくれないのかな。手元において何度も噛みしめたい。しかし、いかんせん長いし、消耗するから3日ぐらいにわけて観る。

韓国やくざと渡り合う大阪やくざ・ヒデキ(これまた70年風な)役、松島圭志郎さんという若い日本人役者ががんばってました。

あ、わすれちゃいけない、途中からですが、峰不二子みたいな役でぺ・ドゥナ登場。以前のような年齢不詳なお人形のような印象から一皮むけた感があり、どすのきいたオーラの悪女役すごくかっこよかった。
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