horahuki

コンジアムのhorahukiのレビュー・感想・評価

コンジアム(2018年製作の映画)
3.8
「国産ホラーは当たらない。」
というジンクスを打ち破り、韓国で大ヒットを飛ばしたPOVホラー。初日に観てきました!

コンジアム精神病院は実際に存在する廃病院で、CNNでも紹介された心霊スポット。1992年に開院し1996年に閉鎖された病院ですが、本作は1970年の架空の事件を発端とした創作話として展開していました。

1970年代の韓国といえば朴正煕大統領の政権下であり、第四共和国時代。漢江の奇跡と呼ばれる高度経済成長により評価されつつも自身の任期を伸ばすために戒厳令を宣布し、反政府勢力に対する弾圧。不法な拷問、冤罪事件が多数発生し、マスメディアへの言論弾圧も行われた独裁体制。

本作のコンジアムの開院は1961.5.16、閉院は1979.10.26であり、朴正煕が軍事クーデターを起こしてから暗殺されるまでという、まさに朴正煕の時代の象徴として舞台設定がされている。また娘である朴槿恵政権下におけるセウォル号事件についても取り上げられており、印象的に登場する402号室というのはセウォル号事件の日付2014.4.16から取ったものとのこと。こちらについては政府の初動が問題視されており、どちらにしても本作が国ないし政府の犠牲となる若者たちを根底に置いているのがわかる。「304 angels」という壁に書かれた文字が一瞬映りますが、これはセウォル号事件の犠牲者数と同じ。

本作は「ホラータイムズ」という動画チャンネルの企画でコンジアムに潜入しライブ配信を行なうという内容。コンジアム近くにテントを設営し、そこで隊長が指示を出し、男女6名がコンジアム内を撮影していく。彼らの目的は再生回数を伸ばし大金持ちになることなので、当然怪奇現象を仕込んでるわけです。でもその中に「本物」が混ざり始めることにより、それまでの楽しい雰囲気が一変する。

正常な状態を観客に意識させつつ、そこからの反復により恐怖を高めていく手法は手堅いし、若者たちが騒がしく話してる自撮り映像の合間に無音の固定カメラ映像を挟み込んだり、魚眼レンズのようなカメラが異界感を高めたり、無音の中に吹く風等、嫌な印象を観客に与え続けることでムードを高めていくやり口に関してはかなり丁寧にアイデアが練られていると感じました。

空間の隅々にまで観客の意識を向けさせようと意図された配置や、柱を隔てた空間の切り取り方、正面と背面の空間の広がりや行き止まりを観客に意識づけた上で行われる恐怖演出もとても丁寧だと思いました。

また、同様の設定を持つ『グレイヴ・エンカウンターズ』へのオマージュも多く、扉の開閉からスタートする怪奇現象だったり、勝手に持ち上がるスカーフ(GEでは髪)だったり、部屋の隅で壁を向いたまま立ってる女性だったりと監督がGEを参考にしているのが良くわかる。コンジアムで行方不明になった若者たちの真相を探るために撮影隊が現地に向かうというのは『グレイヴ・エンカウンターズ2』と同じ設定ですね。

明らかに異常な状況に陥ってる上にそれを認識しているにもかかわらず、安全な場所で観測し続け、助けに行こうともしない隊長は間違いなくセウォル号事件における対応とダブらせているのだろうし、だからこそあの部屋は上も下も水浸しだったのだろうと思います。道中の「水遊び」というのも意味深に感じます。

戦時下における市井の人々への多大な影響と背負わされる「痛み」を描いた『1942奇談』に対し、本作では朴正煕政権下で発展の名の下に弾圧された人々や朴槿恵政権下におけるセウォル号事件で犠牲となった人々等、国により犠牲となる人々の「痛み」を描いていました。世間の批評的にはまあまあといった感じの作品ですが、私は好きです。
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