ヨーク

ちいさな独裁者のヨークのレビュー・感想・評価

ちいさな独裁者(2017年製作の映画)
3.8
予告編を見た印象としてはすごく陰惨な映画で観劇後は鬱々とした気持ちで劇場を出ることになるんだろうなと思っていたけど実際には、あれ? 割と普通に面白く観れたな、という印象だった。もちろん爽やかな気持ちで劇場を出れるような作品ではないけれど何というか思っていたよりも劇映画としての演出がそこかしこで効いていていい意味で説教臭さのようなものを感じなかったのだ。もっとネチネチと戦時中(というか戦争末期)の特殊な状況下での人間の愚劣さを突き付けてくるのかと思ったがそういう感じではなかった。主人公がクソ野郎なのは間違いないけど何か彼の行動に納得してしまうところもあって、でもそこがこの映画の怖いところなんだよなぁと思いながら鑑賞した。
そういう意味ではこれ戦争映画というくくりにはするべきではないと思いましたよね。戦争という状況ではなくとも追いつめられた人間がその状況下で自分の身を守るために、もしくは自分の願望を行動に移すために利用することができるものがあるのなら大抵の人はそれを利用してしまうのではないか。そういう怖さは現代の社会生活の中でも十分にあり得ることだしそこがこの映画で一番怖いところだと思いますね。
やってることは小悪党というか非常に矮小な悪なんですよ。「ちいさな」独裁者とわざわざタイトルで教えてくれている通りです。だがその「ちいささ」が大なり小なり誰にでも刺さる部分なので観ているとうへぇ…となる。90人も殺すのは小悪党じゃないだろうと言われるかもしれないけど、自分が手にした本来の力ではなく借り物の力でしかもそれを誇示することによって自分自身を守ろうとするのは少なくとも俺の基準では木っ端の小悪党です。何人殺したとかいう数の問題ではない。俺も面倒な問題を隠すためにつまらない嘘をついてその嘘を正当化するために他人だけでなく自分自身にも嘘をついてしまうようなことはある。実に身につまされる感じで嫌な気分になりますね、自分自身が小物だということも含めて(笑)。
でも上述したように非常に作劇としての演出が巧みなので主人公が身バレするかどうかというサスペンスな方向ばかりが気になる。もっと観劇中に席を立ちたくなるような生理的に嫌な気分にさせてくれるかなと思ったけどそういう映画ではなかったですね。
でも映画として面白いというのはいいことだと思います。基本的には。
面白かった。
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