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スウィング・キッズのneroのレビュー・感想・評価

スウィング・キッズ(2018年製作の映画)
4.0
朝鮮戦争が舞台のこの映画を韓国で作ってしまう、そのことにまず驚かされた。完全な米中代理戦争となって泥沼化し、今に至るまで終戦を果たしていない。南北双方にとって、そして米国にも触れられたくない題材じゃないのかと思っていたんで、どういう決着を見せるのかとても気になっていた。しかもこの作品、板門店宣言が出された2018年の制作だ。流石に中国軍サイドは描かれないが、いろいろ綱渡りの制作だったんじゃないかと想像する。

それにしてもタップはいいねえ。若い頃憧れたんだが、体重の増加とともに想いは脂肪の奥底へ・・・ 本作での中国人捕虜シャオパンのボディアクションを観ると、まだなんとかなるかもと思ってしまう。あの脇芸だけなら真似できるぞ。

踊りへの本能的欲求がイデオロギーを凌駕する。展開はベタだが、韓国軍楽団とのセッションなど音楽映画としても実に楽しい。メンバー各人の事情も過剰にならずうまく伝えてくれる。例えばキュートな通訳ヤン・パンネ嬢(もっと歌ってほしかった)は、日本語も解るって設定で、日本との関わりも否応なく思い返される。
出番は少ないし台詞も殆どないが、兄ちゃん英雄様の存在感も印象的だった。

前半は寄せ集めダンスチームの心情交流のドラマとして割と明るく描かれるが、後半に入るとトーンは一気に重苦しさを増す。国家の呪縛と個人の想いの葛藤を乗り越えて、メンバーはクリスマスパーティのステージに集結する。クライマックスはアーティストとしての魂の宣言だ。

エンディングの Beatles「Free as a Bird」はあまりにもハマってベタすぎるほどだが、ああいう結末を見せた以上、たしかにこの曲で締めるのがふさわしいのかもしれない。ジョン・レノンが遺した未完成曲を、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スターが手を加えて完成させ、1995年に発表したビートルズ25年ぶりの”新曲”だ。
センチメンタルすぎるかもしれない。それでも、果たされなかった皆の想いを受け止めるジャクソンの心情は尊い。若きMPの彼が見せた一瞬のためらいもまた・・・
トウタップスの輝きが切なかった。

「Fuckin' Ideology」

翻訳は少々違和感を感じる部分があった。特にsergeantジャクソンに対する呼びかけ、「下士官」はカテゴリーであって階級じゃないよねえ。普通に「軍曹」で良くない? それとも、階級を認めたくないっていう黒人差別の表現なのか? アジア人蔑視感も強烈だし。
あと、commieは全部「アカ」だしさ。米韓中国語が入り交じるとはいえ、もう少し表現に細やかさがほしかった。
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