horahuki

ザ・マミーのhorahukiのレビュー・感想・評価

ザ・マミー(2017年製作の映画)
4.1
ママは戻ってくる!!

2006年、メキシコ麻薬戦争。親を亡くし路上で暮らす子供たち。大好きな母親を奪われ、その中に加わることとなった11歳の少女エストレアが恐怖へと立ち向かっていく姿を描いたダークファンタジー・ホラー。

未体験ゾーン2019公開作です。
イッサロペス監督の初のホラー映画となった本作。ロペス監督は本作を製作する上で『グーニーズ』『スタンド・バイ・ミー』、そしてブニュエルの『忘れられた人々』、デルトロの『パンズ・ラビリンス』『デビルズ・バックボーン』にインスピレーションを得たと語っています。

戦争が日常化した世界。学校での授業風景の中で平穏を粉々に粉砕するかのようにけたたましく鳴り響く銃声。外を歩けば人の死体が転がっており、その側で当たり前のように無邪気に遊ぶ子どもたちが映される。そういった日本では考えられないような日常風景とドキュメントタッチで描き出される映像が、本作の舞台がまさに地獄であり、その地獄が現実に存在しているのだということを強烈に観客に訴えてくる。

主人公の少女エストレアが家に戻ると誰もいない。母親は麻薬カルテルのマフィアたちに数日前に連れて行かれ、頼れる人は誰もおらずひとりぼっち。彼女は同じような境遇の戦争孤児な男の子たちを見つけ、一緒に路上での生活を始める。彼らは様々なものを盗んで生活しており、マフィアからは銃やスマホまで盗む。そこにあるのは生きるための強さであり、強くあり続けなければならない息苦しさ。でもそれでも彼らは子ども。警察すら腐敗しきっている地獄のような現実の中で子どもであるエストレアが心を保つために逃げ込んだのが「空想」なのです。

戦争の脅威に虐げられた子どもの空想世界による抵抗というのはデルトロの『パンズ・ラビリンス』の影響が大きく見られるし、彼方の世界からの導きというのは『デビルズ・バックボーン』にも共通して見られるイメージ。庇護を受けられずに強くならざるを得ない子どもたちを描くことにより真に必要なものは何かをあぶり出すのは『忘れられた人々』を思わせる。

そして本作で印象に残るのは願い事を叶えてくれる3つのチョークと母親の幽霊。ただそこには温かさや感動なんていう生ぬるいものは全くなく、皮肉とも捉えられるような悲劇的で無慈悲な現実の厳しさ。

彼女たちのリアリティのある演技がその悲劇性を増している。それもそのはずで、撮影時には子どもたちに台本を見せなかったと監督は語っています。自分たちが物語の末にどうなるのかということを知らずに撮影が進んだため、彼女たちは各場面で本当にショックを受けたのだそう。それがリアリティのあるリアクションとして本作の突き刺さるような生々しさに寄与してるのでしょうね。

空想世界での描写は可愛らしいものが多く、目を逸らしたくなるような現実の中で少しの安らぎを与えてくれる。でも空想は温かく包み込んでくれるだけのものではない。そこには「過去への執着」や「現実からの逃避」の感情が色濃く現れ、空想側がエストレアに対して前を向けと言わんばかりに没頭するのを拒む。だからこそ彼女はあの姿で現れるのだろうし、願いは嫌な現実を呼び起こすのだろうと思います。そこに本作がホラーである必然性が生まれてくる。

「空想」がエストレアに与えてくれるものは導き。過去を燃やし尽くし困難ではあるけれど勇気と覚悟を持って未来と戦っていく決意の手助けをしてくれるもの。エストレアの目を通して見る世界は現実とおとぎ話が入り混じりその境界がぼやけて曖昧なものとなっており、おとぎ話という空想に導かれ鳥となりトラに魅入られた彼女の先に続いていく現実には少しの光が差し込むように祈らざるを得ない。

今年の未体験ゾーンの層の厚さを実感する傑作でした。ハズレ年とか言ってゴメンナサイ。。。『アンダー・ザ・シャドウ』と本作は本当に素晴らしい作品だと思います。双方とも戦争と母娘を扱っているのが興味深いですね。そしてどちらもジャケが酷すぎる(笑)
horahuki

horahuki