平野レミゼラブル

実録 私設銀座警察の平野レミゼラブルのネタバレレビュー・内容・結末

実録 私設銀座警察(1973年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

【一向に吹きやまぬ暴の嵐は、狂気の乱痴気に帰結する!!!!】
冒頭、退役兵の渡瀬恒彦演じる渡会菊夫がアメ公とヤッていた女房をボコボコに乱暴し、そして明らかに黒人との間で出来たであろう赤ん坊を窓の外のドブ溜まりに投げ捨て、それを半狂乱で拾いに行った女房の後頭部を石で滅多打ちにして殺す、コンプライアンスとか倫理観とかかなぐり捨てたようなアバンの時点で頭を抱える。オマケにその直後に焼死体をじゃんじゃん映し出しながらのクレジットロールが始まるのだからイカレ切っている。
でも、普通はそこまでカッ飛ばすのは冒頭くらいって思うじゃん?残りの本編はセーブするって思うじゃん?ところが、OPが終わって20分近くに渡って画面上で暴の嵐が止む間も無かったから唖然とするしかないよね……本作、これまで観てきた『仁義なき戦い』といったヤクザ映画がとてもお行儀が良い映画だったと思える程に全編に渡って狂っています。


戦後間もなくの銀座は現在のおハイソでオシャンな街には程遠く、焼け野原一面にカストリ焼酎の瓶が並ぶ酒場、その隅で行われる賭博、そしてアメ公相手にパンパンに勤しむオンナで溢れる暗黒街でした。
そんなロクでもない街に入り浸る輩はロクでもないヤツと相場は決まっており、暇と暴力を持て余した米兵や、怪しげな三国人がのさばっている。多発する彼らによる犯罪を前にしても背後にいるGHQの威光の前では官憲どもも頼りにならず、自ずとそこでシノギをするヤクザを中心にした自警団が出来上がります。
それこそが博徒の宇佐美義一(葉山良三)、退役兵の池谷三郎(安藤昇)、樋口勝(梅宮辰夫)、岩下敏之(室田日出男)らによって結成される「私設銀座警察」であり、彼らもまた持て余し続けた暴力を鬱憤晴らしと自治に使っていくのです。

基本的に戦争時代の名残で血気盛んな寄せ集めの若者集団の為、その行動のほとんどが自然と暴力となります。そのため、狂気のアバンを経てもちっとも画面が落ち着かず、宇佐美ら銀座警察の面々は常に怒号を上げ、拳を振るい続けるため本当に何を言っているのかすら全く聞き取れない。完全に暴の勢いだけで突き進みます。
しかし、その暴力による推進力は凄まじく、ボコられた報復に在日朝鮮人の集落に手榴弾を投げ込んでまとめて爆殺するサマなんかは滅茶苦茶すぎる。冒頭で倫理の果てを描写してしまったせいで完全に観ている側の倫理観すら麻痺しており、ここまで“暴”の極致を見せつけられるといっそ清々しいくらいに思って、なんかもうゲラゲラ笑いながら観続けることが出来ます。

マジでこの暴力の連続に切れ間はなく「ちょっと落ち着いたかな?」と思った1分後には再び暴の嵐が吹き荒れているのでとんでもない。
銀座警察の4人もそれぞれキャラが立っており、リーダー格の宇佐美はとてもリーダーには向いていない小物のチンピラでしかなく、逆に池谷は頭がキレるリーダー向きの人材で、その2人の対立を飄々と傍観する樋口と脳筋の岩下という、これから訪れるであろう破滅も目に見える面々で構成されています。
さらにそこに冒頭で女房子供を惨殺した渡会が転がり込み、ただでさえ自ら犯した凶行で均衡を崩していた精神に宇佐美が付け込み、シャブ中のヒットマンに仕立て上げてしまいます。

渡会を使って邪魔者を次々と排除し、私設銀座警察が名実共に銀座の顔役となり、池谷がそこから独立して新たに組を立ち上げてからは流石に物語も少し落ち着きます。
この池谷、先見の明を持ち合わせたインテリヤクザであり「これからはビジネスだ!」と(比較的)真っ当な株式会社を興して成功するんですね。部下達にもちゃんとスーツを着せて、暴力とシャブではなく金とプレゼントで人心を掌握する平和路線に。組員達もちゃんとサラリーマン然としていますし、この映画で初めて秩序というものがもたらされます。
普通にヤクザではあるので、真人間と言うには語弊があります。それでも、絶えず吹き荒れていた暴の嵐を収めた功績をもって、池谷を聖人と崇めてしまうくらいにはこの時の僕の価値観はブチ壊れていましたね……演者が戦後間もなく一大勢力を誇った安藤組元組長の安藤昇というマジモンのヤーさんだと言うのに一番まともってのも凄い話である。

……が、平和というものは長くは続かぬ。
暴力しかない男である宇佐美は、自分とは対称的に真っ当に成功している池谷のビジネスが面白くない。完全な妬みではありますが、この男はそういう自らの負の感情にド正直なのです。
そして宇佐美の元から解き放たれる狂気の鉄砲玉・渡会。しかし、暗殺にも万全の対策を取っている池谷の手下によって返り討ちに合い、滅多刺しの上、さらにオマケに鉛玉をぶち込まれて土に埋められます。
しかし、なんと渡会は次の場面では土から手を出し、そのままゾンビの如く地上へと這い出てくるのです!

仮にも「実録」とタイトルに付けてるのに好き放題しやがる……


文字通り地獄から蘇った渡会までは読み切れず(そりゃそうだ)、部下の結婚式会場に乱入した渡会によって新郎新婦ごと撃ち殺される池谷。この瞬間、再び秩序は崩れ、映画の流れも暴の嵐へと巻き戻ります。
ちなみに渡会は襲撃を終えた直後に血を吐いて倒れるので、遂にくたばったかと思ったら次の場面で平然と生きているのでぶったまげる。だから、タイトルの「実録」ってなんなんだよ!!

憎き池谷をブチ殺してご満悦の宇佐美ですが、元より短絡的思考の三下でしかないのでその跡を継ぐことが出来ない。
折角手に入れた中国人とのパイプもロクに活かすことが出来ず、とりあえず恐喝して金をせびることしか出来ないという哀れっぷり。それだけならまだしも、金の在り処を吐かせるために凄惨な拷問をやり続けて殺してしまい、豚の餌にしてしまう始末。
あまりの無軌道っぷりと、再び一気にボルテージがMAXへと上がる暴の嵐にクラクラします。

そんな無茶苦茶な暴の嵐の行く末は当然破滅であり、かつて栄華を誇った私設銀座警察の面々の逮捕が秒読みに。流石に頭を抱える宇佐美の前に現れるのが、池谷の天下でも飄々と陣営を上手く渡り歩いていた樋口。
すわ妙案が!?と思いきや、「どうせ明日から金も女もなくなるなら今の内にパーッと遊ぼうじゃないの」と言い放ち、そのままおっぱいまろび出た女達と一緒にジープを乗り回すパレードを決行。旅館に着くなり札束を撒き散らしながらの乱交パーティーに突入するので空いた口が塞がらなくなりました。

僕が辞書の編者だったら「乱痴気騒ぎ」の項目に、この場面を貼るってくらいの文字通りの乱痴気騒ぎでして、しかもその騒ぎの最中に物語が終わるので大笑いしつつもドン引きですよ。
人間、ここまで品性を無くせるもんなのか……ってくらいの下劣さでして、画面いっぱいに広がる狂いっぷりも相当でしたが、「強姦ってのはこうヤるんだ!!」「どうせ俺達に明日はないんだ!!ヤッてヤッてヤりまくれェーーーッ!!」というヤケクソ極まったパワーワードの連発にも圧倒される。
何が一番ショックかって、これを主導しているのがこれまで飄々と小賢しく立ち回り続けていた樋口だってことですよ。宇佐美がドツボに嵌ってる時も、割と頭良くて余裕そうな雰囲気を見せていたため「コイツが池谷の後継になるのかな?」と思っていただけに失望感が凄い。結局、コイツも獣か……

この乱痴気騒ぎを余所にいよいよ挙動がおかしくなっているのが渡会。冒頭から妻子を惨殺しているので同情の余地は微塵もありませんが、それでもこの乱痴気騒ぎに混ざるだけの人間性すら失ったシャブ漬けの殺人マシンと化していることには哀しくなる。
そして遂に誰にも顧みられることなく血反吐を吐き、その赤い血が画面いっぱいに流れながら「一人の人殺しがのたれ死んだ」から始まるクレジットと共に終劇するのが最高に狂っています。

本作「秩序無き暴」がいかに凶悪なものかを痛烈に叩きつけてくる作風であり、世の中に「良いヤクザ」は存在しないものの、秩序をもたらす「必要悪」となる存在がいないと恐ろしいことになることを知らしめてくれます。
全体的にテンションがおかしく、また渡瀬恒彦が『太陽を盗んだ男』における菅原の文ちゃんレベルに不死身なため、「実録」を名乗っちゃいけない作品ですが、「混沌の時代に秩序をもたらす存在がいたとしても、結局多数の混沌に呑まれて台無しになってしまう」という部分は最悪のリアリティを発揮しているので妙な味わいです。
話の構成も「暴→秩序→暴」で綺麗なシンメトリーになっているので、作品自体も良く出来ていると言わざるを得ないのですが、秩序パートが極端に短い上に、暴パートが限りなくトンでいるのでやはりイカレた作品と結論付けざるを得ないという……

ただ、安藤昇以外の全員が『広島死闘篇』の大友勝利か『忍者と極道』の極道かって勢いで秩序が崩壊している光景ってのは、誤解を恐れずに言うなれば楽しいんですよ!!全力でイカレてるので割と普通に引くが、イクところまでイッてしまったその強烈さは褒め称えるしかない。

正直、人に薦めるにはかなり躊躇われる作品なんですけれども、それでも「暴」の限りを尽くして滅茶苦茶にも関わらず、不思議な部分でまとまっている本作は大大大好きな劇薬であり、ドン引きされるの覚悟でオススメしたい狂気に溢れております。
アルプスの麓に住まう純粋な少女に観せた場合、冒頭部分で即死だと思いますが、それでも観せたい……!!
よって、僕の中で気が狂っている映画枠である特別評点「4.4」を付けたい心を抑えて「超絶オススメ!!」とさせていただきたい……!!同時に「狂っている!!」表記もしますが!!