Filmoja

イエスタデイのFilmojaのレビュー・感想・評価

イエスタデイ(2019年製作の映画)
4.0
中学生の頃に、テレビかラジオで耳にした“Let It Be”に惹かれて、初めて手にした赤盤と青盤。
高校生の頃に、ギター弾き語りに憧れてコード練習に夢中になった“Yesterday”。

ビートルズが存在しない世界で、売れないミュージシャンだった主人公のジャックが、何の気なしに演奏したときの友人たちのリアクション。

ワォ…何それ?誰の曲?いつの間に作ったの?

今や教科書にも載っているようなスタンダード曲が、こんなにもエモーショナルに胸を打つなんて。
まるで劇中で驚愕している彼らのように、そして60年代当時に初めて出合った人たちのように、今また、新鮮な感動を共有できる幸せ。
映画というファンタジーの魔法でこんな気持ちを味わえただけでも、自分はもう充分に満足だ。

だってモチーフは何しろビートルズだ。
音楽的にはもちろん、ファッション、アート、カルチャー…あらゆる分野に影響を与え、彼らの存在なしには語れないものがあまりにも多すぎる。
だからこそ、そもそも無理のある設定に所々詰めの甘さを感じるけど、本質はそこじゃない。

素晴らしい名曲の数々をフィーチャーした愉快なラブコメに仕立てあげ、セリフや演出の端々に込められたオマージュや、ストレートでコミカルな登場人物たちが織り成すドタバタ劇。
あるいはショービズ化した音楽業界を皮肉ったり、神格化されたアルバムをジョークにしたり。
あまりひねりのない、ごくごく単純なストーリーラインでも、うだつの上がらない主人公に共感できなくても、献身的に支える幼なじみのマネージャーにリアリティーがなくても、エド・シーランの扱いがかわいそうでも、都合のいい展開が続いても、とにかく楽曲の力でグイグイとラストまで引っ張っていく。

世界的な成功とは裏腹に、どこか満たされない人生。それまで借りもののような生活だったジャックがHelp!と叫び、切実な想いを吐き出すカタルシス。

様々な経験を積み重ね、大人になるにつれて忘れがちになる純粋な遊び心、新鮮な驚き。
“愛こそはすべて”ーーーーあまりにシンプルでこれまで意識すらしていなかった、かけがえのない、大切なものたち。
それらをこの手に、この世界に取り戻そうと奔走する姿に、今ひとつ物語に入りきれなかった自分も救われたような気がした。

ビートルズが存在しない世界なんて、ひどく味気ないし、想像なんてできない。
それは本作でも同様だ。
あるがままに、時代を超える普遍的な素晴らしさ。
どうか古くさいリバイバルだなんて思わないでほしい。
願わくは映画を通じて、この珠玉の楽曲たちに多くの若者にも触れてほしい。

クライマックスで歌われるHey,Judeは、本作ではジャックのことであり、悩める私たちのことでもあり、これからの未来を担うであろう子どもたちを励ます人生賛歌だ。
昨日より今日の、新しい日々に希望を。

「ありのままに受け入れて
ヘイ、ジュード やってごらん
きみは誰かの手助けを待っているけど
きみにしかできないって分かっているだろう
ヘイ、ジュード 分かっているよね
きみに必要なことは すべてきみ次第だってことを」
Filmoja

Filmoja