河豚川ポンズ

ラストナイト・イン・ソーホーの河豚川ポンズのレビュー・感想・評価

3.9
イタコ探偵物語㏌ロンドンな映画。
ジャンルが一応ホラーだったから身構えてたけど、案外そこまででもなかった。
でも人によっては無理なシーンはありそう。

ファッションデザイナーを目指して、イギリスの片田舎からロンドンへとやってきたエロイーズ(トーマシン・マッケンジー)には、亡くなった人の霊が見える力があった。
ロンドンのデザイン学校に入学したエロイーズだったが、周囲の学生に馴染めず、寮を離れて一人暮らしを始める。
そこで彼女は60年代のソーホーで歌手志望のサンディ(アニャ・テイラー=ジョイ)として過ごす夢を毎日見る。
サンディに影響されて外向的になっていくエロイーズだったが、日に日に日常が夢に吞まれるようになり、そしてある夜サンディは夢の中で殺されてしまう。
それを追体験したエロイーズは、サンディを殺した犯人がまだ現代に生きていると考え、一人で事件の真相を追い始めるのだった。

エドガー・ライトってこういう感じの映画も撮るんですねというのが率直な感想。
「ショーン・オブ・ザ・デッド」、「ホット・ファズ -俺たちスーパーポリスメン!-」みたいなコメディから、「ベイビー・ドライバー」みたいなおしゃれなアクション映画まで撮ってきて、今度はサイコロジカルホラーと多ジャンルが過ぎる。
ただ、そこまでホラー然としている話かというとそうでもなくて、60年代のファッションと音楽、原色のネオンライトの眩しい色使いでややポップな印象。
ストーリー面でも、男性優位の社会で虐げられた女性たちの苦悩がテーマで、結構キツめな性暴力の描写が入ってくる。
終盤は正しくホラーといった感じだけど、嫌悪感というか不快さでいえば序盤のそういうシーンの方が辛い。
見る人によっては本当にダメかもしれないので要注意かも。

ここまできて、何というかこの映画を大傑作と言い切れないのは、シーンごとのポップさと主題の重さがあまりにもミスマッチすぎて、何とも言えない心持になってしまうからだろうか。
悲劇的だけど、かといってそれが報われるほどスカッとする展開というわけでもないし、心の中にやんわりとしたモヤモヤが残ったまま2時間弱が過ぎていった印象。
まあ、アニャ・テイラー=ジョイ、トーマシン・マッケンジー、マット・スミスという、頭角を現してきた今話題の若手俳優たちの迫真の演技が見られただけでもいい映画だったということで。