平野レミゼラブル

悪人伝の平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

悪人伝(2018年製作の映画)
4.2
【ワクワクヤクザランド開園!!暴力のエレクトリカルパレードを堪能せよ!】
わざわざマ・ドンソクを狙う無差別殺人鬼、どうかしている!!!!

いや、マ・ドンソクなんていうもう見るからにガッチリしている肉弾凶器な人をですよ…わざわざ標的にしてナイフ一本なんて貧弱な装備で襲うなんてどうかしているじゃないですか…だからなんか病むに病まれぬ特殊な事情があるとか、絶対に殺さなきゃいけない悲壮な覚悟があるとか、誰かしらの壮大な陰謀とかそういうの絡んでくると思うじゃないですか…結論としてマジの無差別殺人鬼だったのでビックリする。いくら差別にデリケートな時代とはいえ、もうちょっと差別しても良かったんじゃないかな!?

とまあ、無差別殺人鬼の名に違わぬ無差別さに思わず拍手喝采したくなるのですが(殺人鬼やぞ)、本作のタイトルは『悪人伝』ということでガッツ溢れる殺人鬼を、メンツのための報復に燃えるマブリーの極悪組長と、平和よりもむしろ出世のために捕まえようと躍起な暴力刑事の異色のタッグが悪の限りを尽くして追いかけブチ殺し合う非常にドス黒いエンターテイメントとなっています。

本作の特筆すべき長所は登場人物が全員悪党だし、大勢死人がでるし、暴力と殺戮の嵐の止み間がないのに滅茶苦茶エンターテイメントしていて面白いってところです。韓国ノワール特有の血に塗れたほの暗い雰囲気は終始充満しているのに、熱い少年漫画の引きみたいなラストなのは正直おかしいと思う…!
そのため、スタッフロールが終わって真っ先に出てきた感想は「ワクワクヤクザランド…!!」でした。テーマパークに来たみたいだぜ、テンション上がるなぁ~!

そう、ワクワクヤクザランドはアトラクションが充実!!
景気よくガラスをぶち破りながら人がブッ飛んでいく暴力のジェットコースターに、ヤクザ・官憲・殺人鬼がアクセル全開で足を引っ張り合いまくる仁義なきゴーカート!!食事時にはワクワクヤクザランドのマスコットであるマブリーと一緒にしゃぶしゃぶを食べられるよ!ただしマブリーは食事中にうるさい奴は嫌いで、そういう奴は意識を失うまではたいてくるので気を付けようね!!

キャラクターがアホみたいに一貫しているのも良かったですね。
マブリー演じる組長は暴力でこの世界に君臨する武闘派ヤクザで、常にパワフルに人をぶん殴ってるので迫力が凄いです。なんたって、ファーストコンタクトでサンドバッグ打ってると思ったら、中から血まみれの人が出てくるので掴みはバッチリ!!実写版最凶死刑囚篇かよッッッ
身内にも時に暴力を以て服従させることもありますが基本は仁義に篤く、例えば組長同志の会話に割り込んでくる部下には鉄拳制裁を食らわせますが、その部下を馬鹿にした相手側の部下も歯を素手で引っこ抜いて黙らせるなど、まあ我々の世界の常識が通用しないスゴ味というのは常に滾っています。暴力だけでなく、殺人鬼の落とした凶器を利用して敵対関係の組長を暗殺するなどの頭脳面のキレも見せてくるのも中々強か。
それでいながらカタギには優しく、雨で濡れる女子高生に傘をやるなどはいくらなんでもベタすぎる感じではあったんですが、まあ半ばマブリーのアイドル映画みたいなものなんでいいんじゃないでしょうか。あとバス停に傘持ちながら佇むマブリーが「トトロいるもん!」って言われていたのには噴く。
背中に鬼が宿っているその肉体美も見せるサービスシーンもあるよ!!マジでなんでこんなの狙ったんだ、連続殺人鬼!!

その連続殺人鬼にしても一貫して格が高く、最後の最後まで全くビビることなくマブリーに立ち向かっていく姿には思わず感心してしまいます。作中でも「お前(マ・ドンソク)みたいな奴をわざわざ狙うなんてイカれてるに決まってるだろ」と言及されるように、そのイカれきった執着心を殺人の原動力として燃やし尽くして次々人を殺したり挑発してくる姿はもういっそ清々しい。
身体能力にしても剛のマブリーに対する柔の連続殺人鬼といったような華麗な身のこなしが印象的。五条大橋の牛若丸の如く軽やかに致命傷を避け、やたらと逃げ足は早く、そして重傷を負っても自ら医療用ホッチキスで傷口を止めるというガッツが凄い。何がお前をそこまで動かしてるんだ……
何回かその動機や思考がかいま見えるようなセリフを呟き、彼の部屋から意味深な宗教や哲学の本にメモも見つかるんですが、それら全てに意味があるようで別にないってのも凄い。要はそれらは彼が「連続殺人鬼」であるというそれっぽい「記号」でしかないんですよ。だから何故彼が連続殺人鬼なのかっていうと「連続殺人鬼だから」と身も蓋もないことしか言えない。でも、変に犯行動機に繋がるような動機や思考がハッキリ見えるよりは全然良いです。むしろ、突如現れたスーパー殺人鬼として最後の最後まで君臨してくれたことへの安心感の方が強い。

そんな二人に囲まれたからか暴力刑事に関しては妙にキャラが弱く感じてしまいますが、冒頭からマブリーのショバにガサ入れと称してチンピラを拉致してアッシーくんにするという無茶苦茶なことやらかしているので別にそんなことはない(笑)殺人鬼を捕まえる動機も一貫して出世のためなので、市民の平和とかは基本二の次なのが彼の全てです。
ただ強さと度胸に関しては他2人より明らかに劣っていて、鑑識の女性に不意打ちしてあっさり背負い投げされるレベルに弱いし、目の前で人が死んだら滅茶苦茶うろたえる。事件を連続殺人鬼が絡んでいるといち早く見抜く頭脳も持ってはいるんだけど、ここぞという時に間が抜けててマブリーに出し抜かれるというように、結構残念なところも見受けられるんですが、極悪組長と連続殺人鬼というアクが強すぎる存在にある程度常識的な立場からツッコミを入れることのできるポジションと考えれば、その中途半端なスペックも納得です。
途中、妙にマブリーに感化されちゃったような言動になるのも愉快だし(その時にマブリーがフッて笑うのが凄くイイ)、なんだかんだで最後までこすズルく立ち回っていくのもこれまた一貫しているので憎めない。

要はこの三人のキャラクターが滅茶苦茶良い上に絡みのバランスも取れているのでね、物語が凄く上手く回っていくんですよ。みんな割と単純な目標があって時に共感や友情めいたものもかいま見えるんだけど、結局腹の底では出し抜こうと画策している。そんな仁義なき世界観なんだけど、キャラの一貫性のおかげで前述通り滅茶苦茶シンプルにエンタメとして爽やかに消化できちゃう。いっそタイトルも英題の『The Gangster, the Cop, the Devil』にあやかって『極悪組長VS暴力刑事VS悪魔の殺人鬼』みたいなタイトルでも良かったんじゃないかって感じ。

無辜の市民が次々殺されるのにも関わらず、不思議と悲壮感とかがないのもひとえに「マジかよ~!?すっげぇワルの殺人鬼じゃ~ん!!」くらいのテンションで物語が進んでいくから。
もうね、韓国映画のバイオレンスな部分が苦手って方も、騙されたと思って是非観に行って欲しい快作ですね。なんせ空気こそ韓国ノワールなのに、お出しされるのはハリウッド大作のポップコーンムービーなんで。正にポップコーンノワール!
というか既にマブリーが敬愛しているシルヴェスター・スタローン主導でハリウッドリメイクも構想されているらしいんで、そっちも要チェックですなあ。そっちでも極悪組長はマブリーらしいですよ。

オススメ!!!!