平野レミゼラブル

ブラック・ウィドウの平野レミゼラブルのネタバレレビュー・内容・結末

ブラック・ウィドウ(2021年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

【スパイ・ファミリーの再形成、アベンジャーズ・ファミリーの再始動。】
新型コロナ襲来による度重なる延期を重ねた上で、遂にMCUが劇場で2年ぶりに再始動。その記念すべきフェーズ4の先陣を切るのは、フェーズ1からずっと活躍していたにも関わらず、その半生が謎だらけだった女ナターシャ・ロマノフことブラック・ウィドウ!!
インフィニティ・サーガを経てのフェーズ4ではありますが、時間軸は『シビル・ウォー』と『インフィニティ・ウォー』の間を埋める過去篇であり、そして『エンドゲーム』でのナターシャの決断を考えると、これが最初で最後の単独作となります。
僕もMCU感想はサボりまくってフェーズ1のところで止まっていますが、マラソン自体はちゃんと『ブラック・ウィドウ』に間に合わせるように完走しましたからね!!感想については気長にやっていきます……『エンドゲーム』とかゼッテェー1万字超える自信あるよ……

僕、地味にブラック・ウィドウ好きなんですよね。エフェクト盛り盛りな魔術やロボット大戦よりも、生身の格闘メインなアクションのが好きなんで。アイアンマンやソーが派手派手にドンパチやっている中、堅実かつスピーディーに敵を一人ひとり仕留めていくウィドウの姐さんに惚れ惚れしていました。
そして、単独作でもその傾向は変わらず『シビル・ウォー』で追われる身になった姐さんが、次々襲い掛かってくる刺客を体術主体のアクションでスタイリッシュに倒していき、時にカーチェイス、時に脱獄ミッションと古式ゆかしいスパイムービーっぽいアクションが堪らない。

これまでのシリーズで彼女とホークアイとの会話の中で散々登場したブダペストが主要な舞台となり、かつてそこで彼女が従事していた任務の内容が明らかになると共に、その任務で犯してしまった罪への贖いが今回のメインとなります。
かつてブラック・ウィドウが行った任務というのは、攫った女児に徹底した技能と洗脳を仕込んで暗殺者に仕立てる「レッドルーム」を管理するドレイコフの暗殺。レッドルーム所属の暗殺者であったブラック・ウィドウは、ドレイコフの危険性を重々承知だったが為に、彼の幼い娘をも巻き込む爆破を決行した。これこそが彼女の消え得ぬ罪です。
しかしドレイコフは実は生きており、前よりも巧妙に隠れながらレッドルーム計画を続けていることが判明。そのことを伝えてきたのが、かつて任務の一環として疑似的に家族を成していた時の妹・エレーナ。彼女は姉の脱退により支配が強まったレッドルームの洗脳を解いて、姉に不始末のケリをつけることと、残りのレッドルームの仲間を開放することを求めます。

エレーナを演じるのがフローレンス・“ミッドサマー”・ピューですが、彼女の常に不機嫌そうな妹感が堪らん!姉が早々にレッドルームからイチ抜けした上に、一転して正義のヒーローとして脚光を浴びている事実に不満と嫉妬と怒り、そしてちょっとの羨望をない交ぜにした感情を抱いていまして、それがそのまま表情に反映されているのが良いです。
『ミッドサマー』での感情を抑え切れないヒステリックな部分、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』での圧倒的末っ子感の経験が活かされまくっていまして(でも撮影時期被っていたような気がしなくもない…)、不機嫌顔でもどこかチャーミングなんですよね。
姉の登場時のポーズまで揶揄して馬鹿にする辺り、割とクソガキ的な八つ当たりも多いんですが、まあ爆破するだけしてドレイコフの死亡確認もしないままアベンジャーズ入りしたナターシャ(あとクリント)にも割と非があるような気もするんで仕方ない。というか、ドレイコフの娘も結局生きていたから何の為のビル爆破だったんだよって感じである。ポーズ揶揄に関しても、後でエレーナもうっかり真似しちゃったりするので、結局憧れの裏返しな感じですしね。

ドレイコフ最強の駒であるタスクマスターの襲撃を何度も躱しつつ、姉妹はどこにあるかもわからないレッドルームを探し求めて奔走します。
その中で鍵となるのが、姉妹が疑似家族をやっていた時の父と母。父はドレイコフ専属のボディガードであるレッド・ガーディアン、母は直属の科学者ということで彼らなら居場所を知っているかもしれないと接触を図ります。
アベンジャーズという家族を手に入れたと思ったら崩壊し、結局少女時代の疑似家族に回帰するというナターシャの運命も数奇なものですが、父レッド・ガーディアンが収監されている刑務所から脱獄させる件があまりに暴力的過ぎて感傷に浸る間がない。いや、いくら色々強行軍だからって、バズーカぶっ放しつつヘリに父親を無理矢理乗せるってなんだよ!!ナターシャがこれまで魅せた無駄のない動きってのは、割と物質的にも精神的にも余裕があったアベンジャーズ時代だったからこそなんだろうなァってのがわかります。

それはそれとして、エレーナが監視塔にバズーカぶっ放して倒壊させたり、その後余波で大規模な雪崩が起きたけど、これ誰も死んでないんだよね……?
刑務所の人達はただ職務に忠実なだけなんだから、巻き込んじゃったらビル爆破したナターシャ以上にアウトだよね……?
ここら辺もボカされたまま進むので、今回結構大味です。

あとレッド・ガーディアン、キャップと同じスーパーソルジャー計画の産物であり、用意された衣装もパチモンで対抗心強いのはわかるんだけど、本当に闘ったかも胡散臭いペテン師っぽさが凄い!!
流石にキャップ凍結時に闘ったって抜かすのは嘘にしてもヘタクソすぎるだろwって笑っていたんですが、『エンドゲーム』後に過去に戻って人生をやり直したキャップと闘ったのでは?って指摘を見て「あッ……!!」となりましたね……実際のところはわかりませんが、ヒーロー引退したとしても一切戦わない平穏な暮らしを是とするかは微妙なところだしな、キャップ。アンタ、やっぱり立派過ぎるぜ……(僕は『エンドゲーム』を経てキャップ贔屓が最高潮に達しています)

下手するとキャップの話続きそうなんでレッド・ガーディアンの話に戻します。
コイツがまた、冒頭で見せた家族を守るために飛行機の翼にしがみつく勇姿はどこへやらで、本来の姿は自分のチンケなプライドを守るために過去の栄光にしがみつく情けないクソ親父だったワケです。刑務所内でもすっかりだらしなくなった腹回りからして、スーパーソルジャーの持て余した力を腕相撲に使い弱者相手に鬱憤を晴らしつつのうのうと生きていた模様。
久々の娘との再会でも、かつて「家族」を利用したことを微塵も悪いとは思わないなど、中々のクソ野郎っぷりです。自己顕示欲の塊のような男で、いつまでもあったのかどうかも怪しい栄光だけを誇る虚勢が哀れ。
ただ、同時に娘の「才能」も自己と同じくらいに愛していることは窺えて、その才能の使い方に対してはとやかく言わず、磨き抜いた才能を活かしていることのみを高く評価してくれるのでどこか憎めない。なんやかんや、才能ある人大好きマンなんですよね。指導員として抜群の適正な気がしますけど、本人は現場徹底主義のナルシストだからゼッテェーその役割は突っぱねるだろうという。なんて面倒臭いヤツなんだ!!

その後に合流する母親メリーナも、暗殺者ウィドウという一線は退きながらも、マッドサイエンティストとしての思想や立場は捨て切らないなど、割と危なっかしい人物。
予告などでは全員揃えば敵なし無敵のスパイ・ファミリー!!みたいな雰囲気を醸していましたが、実際のところは全員割と屑人間一歩手前で、さらに皆が自分勝手なため一枚岩ではないチームだったという。
でも、これ、ナターシャが愛したアベンジャーズ・ファミリーにどこか通じる部分もあって中々興味深いです。実際、本作で久々に食卓を囲んだ時は『アベンジャーズ』1作目でケバブ食べた時のようなどこかチグハグな空気が漂っていて愉快でした。

んで、その後にメリーナから現在のレッドルームの詳細を聞き出し、頭を使っての潜入任務に突入。レッドルームの所在が天空の城だったのには驚きましたが、なんなんスかこれは……いや今まで散々S.H.I.E.L.D.の超科学とか見せられたから、納得は出来ますが……
しかし、まさか洗脳の解き方も頭を使うんだけど「頭を使う(物理)」だったのには驚かされたね。今回本当に脱獄辺りから大胆な物理主体の突破方法で、僕が求めていたブラック・ウィドウのスタイリッシュさとは大きく異なるのが正直なんだかなァって感じではある。

まあ、一番なんだかなァって思ったのはメインヴィランであるタスクマスターなんですけども。
タスクマスターは一度見た動きを完コピ出来る能力を持っており、作中ではホークアイの超弓術、キャップの盾投げ、ブラックパンサーの鉤爪攻撃などを再現。インフィニティ・サーガの終わった後の1作目でこの能力ってのは「過去のアベンジャーズが敵の力に!!」みたいな熱さが感じられると思ったんですよ。
ところがタスクマスター、タスクを全くマスターしているとは思えない。技の全てが凄い中途半端で、模倣にしてもオリジンより大きく劣っている気がします。劇中で唯一オリジンと同等の技巧っぽかったのが跳弾矢ですが、ノールック射撃くらいまでやってくれないとホークアイレベルとは言い難いです。
そもそも、アベンジャーズのメンバーって全体的に超常的な能力やワンオフ装備主体のアクションが多めで、あまり模倣できる技術自体が少ないような……戦闘描写自体は良いのですが、肝心なところで戦闘中断することも多くて消化不良です。その分、最後の空中戦は圧巻ではあるんですが、いよいよもって誰のタスクが凄いんだかもイマイチわからなくなった気はしなくもない。

あとなあ…タスクマスターの正体がドレイコフの娘ってのもなァ……
いや、別に僕はアメコミを追い掛けているワケではないんで、原作と大きくキャラが違うとか性別すら違うこともよくわからんので、変更自体は問題とは思わないです。ただ、この変更はブラック・ウィドウの罪を清算する為だけのとってつけた設定っぽく映っちゃったのが結構な問題点。この設定一つでヴィランとしてのキャラクターが逆に薄くなっちゃったんですよね。
予告の段階じゃこれ以上なくワクワクするヴィラン造形だったんだけどなァ……生き残りはしたけど、今後ヒーロー側に転身して活躍するとかの道はあるだろうか……

思えば、今回の裏テーマである「男性に搾取される女性の解放」にしても、レッドルームの在り方自体が結構露骨にそれそのものでしたし、全体的にテーマ在りきで物語を併せて創った感じは否めないです。
他のMCUは結構巧みに隠していた気がするんだけどなァ……今回は色々と暗喩が巧くいってなかった……というより最初からする気もなかったような気がしてならない。
テーマが露骨でも、スパイ・アクションが面白ければ良いんですが、ポリティカル・サスペンス風味でジャンルが近しい『ウィンター・ソルジャー』に大きく劣るのでそこも結構微妙なところ。全体的なクオリティの高さは据え置きなんですけどね。特に『ブラック・ウィドウ』だからこその面白みに欠けていたのは惜しい。

『エンドゲーム』後の凄いスタートダッシュを決めるには加速不足な面が目立ったものの、なんやかんや、やっぱり久々にスクリーンでMCUを観ることができたのは嬉しいし、結果的に楽しくはありました。やっぱり一定以上の水準は抑えてあるってのもデカいんだよね。
このクオリティを維持したまま、今後もフェーズ4が進むとあれば、やっぱり期待せざるを得ないし、頼むからコロナはMCU進行の邪魔をしないで欲しい。



MCUお約束のエンドロール後のクリフハンガーはエンドゲーム後、ナターシャ・ロマノフ死後の世界。結局、殺し屋稼業に戻ったらしいエレーナですが、新たな雇い主から愛しの姉を奪った要因としてホークアイ…クリント・バートンの写真が提示される。
復讐に燃えるエレーナはそのままクリントの元に向かいますが、まあどう考えてもこれエレーナの2代目ブラック・ウィドウ襲名&本格的なアベンジャーズ参入フラグでしかないんで、滅茶苦茶ワクワクしますね。なんやかんやクリントさんとこに居座って彼を辟易とさせたり、かつてのナターシャのように互いに軽口を叩き合えるような新たな妹系相方になる予感しかしねェもん。
次の登場が『ブラック・ウィドウ2』か『アベンジャーズ5』なのかはわかりませんが、やっぱり続きが気になってしまうゥ~~~!フローレンス・ピューのMCU本格参戦を心待ちにしております。