平野レミゼラブル

キーパー ある兵士の奇跡の平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

キーパー ある兵士の奇跡(2018年製作の映画)
3.7
【守護する男の罪と罰。自分の罪をもキープするべきなのか――】
元ナチスでありながら、戦後はイングランドのサッカーチーム・マンチェスター・シティの守護神として活躍した伝説のキーパー、バート・トラウトマンを描いた伝記映画。これまた異色の経歴を持つ人物を取り上げた映画であり、掘り下げるだけでいくつものドラマが生まれるとなれば、題材選びの時点で大成功でしょう。
サッカーに関しては全く興味がないので、試合の凄さとかそういう部分は正直よくわかりませんでしたが、試合内容以上に戦争が遺した爪痕や、贖罪とは何かといったヒューマンドラマとして深堀りしてくれたので特に問題はありませんでしたね。

題材的には重いのですし、すぐに終わるとはいえ冒頭で戦争描写もしっかり描いてはいるのですが、捕虜収容所時代のお話は割と陽の雰囲気が漂っています。一応、便所掃除の汚らしさ、捕虜内にいる一部過激派の脅威、そしてダドリー・ダーズリーことハリー・メリング演じる所長の厭な感じの態度や策略こそありますが、その辺りあまり徹底して描かれることもないので意外に印象は薄いです。
むしろ、トラウトマンをスカウトするサッカー監督の愉快なキャラクターもあって結構軽やかにお話が進むのがいい具合。あまりに調子が良く、特に考えなしに捕虜をチームに引き入れちゃう強引さの塊で、日本人が演じるなら竹中直人ってくらいのキャラクターなんですよ、監督。このお調子者監督が潤滑油になっているため、収容所-監督の店-サッカーコートという3箇所で徐々にトラウトマンが馴染んでいき、さらには監督の娘とロマンスを深める展開がスムーズに展開していきます。

後半から監督は義父となり、トラウトマンも弱小チームから名門マンチェスター・シティに移籍することでスイッチは切り替わります。田舎のチームだとなんやかんやで受け入れられていたトラウトマンも、大都市では元ナチス兵としてスキャンダラスに報じられサポーター達からもブーイングの嵐に見舞われるわけです。
元ナチスで志願兵だとしても、当時の気風であればそれは当然の感情だし、まして国主導で行われる残虐行為を個人で止められる筈もありません。なので、個人を責めるのはお門違いではあるのですが、そうは問屋が卸さないというのも何となくわかってしまうというもの。それでも、これらの非難をも受け入れて結婚した奥さんの「責めるのは簡単。許すことの方が困難」という名言が響き、そしてトラウトマン自身も実力で現在の自分の存在を確立させていくというのが胸を熱くさせます。

…とここまで結構丁寧でありながら、収容所時代と変わらずテンポ良く進んでいくので「あれ?この映画ってそんなに上映時間短い奴だったか?」と思わず時間を確認。まだ時間は余っており、「これから先にどう物語を続けていくんだろう?」と思ったところで……おおぅ……こういう展開か……
この物語は罪と赦しのお話だと思ったのですが、むしろ罪と罰のお話。他人に許される以上に、どうやったら自分を許すことが出来るのかというお話だったというのか……

本作でトラウトマンは真面目な男として描かれます。真面目だからこそ、元ナチスであることを隠しもしないし、バッシングも甘んじて受け入れながら真摯なプレイでハネのけていく。しかし、それは同時に過剰なまでの自罰性として表れるのです。
首の骨を折る大怪我を負ってフラフラとなりながらも、最後までキーパーとして試合を続け、試合終了後にちょっとでもズレていたら間違いなく死んでいたと診断されるその姿は異常と言ってしまって良いレベル。
それだけに彼の自罰性を認識した奥さんに、その異常性と彼が罰だと結論付けた運命を明確に間違いと正されたところで物語が終わったのは少し安心しました。

また、映画を観終わった後にバート・トラウトマンを調べてみたところ、映画は彼の自罰性を強調するために若干時系列を前後させている部分があり、そこら辺をやっぱり映画用に上手くまとめているなあって印象を受けます。ただ、奥さんともその後も支え合った…ような雰囲気がありましたが、実際には普通に離婚していたようで、中々「事実は小説より奇なり」とはいかないもんだなとも思います。