平野レミゼラブル

エターナルズの平野レミゼラブルのネタバレレビュー・内容・結末

エターナルズ(2021年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

【人間を愛してくれてありがとう。】
確か『エターナルズ』にクロエ・ジャオ監督が抜擢されたのは『ノマドランド』以前で、映画好きの間でのみ『ザ・ライダー』が話題になっていたくらいの時だったでしょうか。だからこそ『ノマドランド』がアカデミー賞を獲った時には「はえ~、MCUはイイ感じに青田買いしたな~」と思ったものです。
しかし、『ザ・ライダー』と『ノマドランド』を観て驚愕。2作品とも素晴らしかったものの、その作風は雄大な景色を映して叙情的かつドキュメンタリーチックに淡々と人間心理を浮かび上がらせるもので、ザ・エンターテイメント!!って感じのMCUとは真逆の作風だったからです。
なので「えっ!?MCUは一体ジャオ監督に何をやらせたいの!?」と困惑しましたし、ジャオ監督も何故この案件を引き受けたのか訝しみまくりました。

ただ、その謎も『ノマドランド』以降増えたジャオ監督の各種インタビューで解き明かされていきます。何のことはない、ジャオ監督自身が漫画・アニメ大好きな大のオタクだったということで、最初からMCU路線でも映画を撮る気満々だったってワケです。一番好きな作品が『幽☆遊☆白書』で、推しが蔵馬な時点で筋金入り。
そんな生粋のオタクであるジャオ監督が『ザ・ライダー』や『ノマドランド』で魅せてきた雄大な演出をそのままMCUに適用させたため、話は王道なのに画はやたら異色で重厚という不思議な観心地の映画に仕立てています。古いのに新しい。壮大なのに身近。MCUじゃないようでMCU。

そもそもの主人公チームが、メソポタミア文明の頃にセレスティアルズという神に等しい存在によって生み出されて地球に派遣された不老不死の超人達『エターナルズ』の時点でこれまでのMCU作品としても異色のスケールの大きさですよ。雷神とか魔術師とか銀河盗賊団とかも出ていますけど、それでもそんな人類の始まりから生きているなんて神話級はいませんからね。
あまりに強大な力を持ちすぎているため、サノスによる指パッチンですら些事としてスルーしていた等、正にアベンジャーズの規模にも収まらない超越者集団ですよ。人類史のターニングポイントに彼らが紛れ込んでいる回想シーンからしてジャオ監督レベルの雄大さじゃないと描き切れなかったのは明白です。

それこそ濡れ場や、人種・性差・ハンディキャップなども前面に出したり、雄大な風景を映し出していく都合上どこかドキュメンタリーチックな部分もあったりなど、MCU作品としては異色の側面が目立つので賛否は結構別れているけれど、僕としてはジャオ監督の作風と癖(ヘキ)の混ざり具合含めて興味深く観れたので良かったです。
ジャオ監督が『幽☆遊☆白書』のオタクって部分が強く印象に残っていたから、なんかエターナルズの一部面々が人類に対して抱いている感情が仙水忍みたいだな~とか思ってたりしてました。『幽☆遊☆白書』好きな女性創作者は、戸愚呂以上に仙水とか樹とか刃霧に情緒乱されてそうって偏見があるからね……
いつ、エターナルズが十人で墓を掘り出すか気が気じゃなかったです。

エターナルズの面々の元ネタはあらゆる神話の登場人物ですが、北欧神話で一本化しているのにどこかちぐはぐだった『マイティ・ソー』シリーズより一貫している感じなのも好感持てましたね。
作品全体の下敷きは、おそらくメソポタミア神話及びギルガメッシュ叙事詩で、エターナルズが敵対しているディヴィアンツの造形もティアマト神の生み落とした怪物であるウシュルガムとかウガルルムをモチーフにした感じでしょう。そのため、割と冗談抜きで『絶対魔獣戦線バビロニア』の実写版みたいな絵面がお出しされたのも楽しかった。
あと、こういう悠久の時を生きる人物が、人類史における神話となったって設定大好物なんだ。同じく人類史の裏で暗躍する不死者集団を描いた『オールド・ガード』のアンドロマケみたいなの。

ただ、その一方で人類7000年の歴史ともなるとスケールが大きくなりすぎてしまい、話についていけなくなることもしばしば。割とエターナルズの皆さんは4桁生きている割に俗っぽく、感情移入自体はしやすいんだけれども、地球の人類を取るか?宇宙全体の生命を取るか?の選択肢で悩まれたり、内輪揉め起こされても割と困るというか……
あまりにスケールデカすぎて、観ている側としてはどう感情移入して観たらいいのかわからなくなっちゃうんですよ……ここら辺は同じくセレスティアルがヴィランとして現れた『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』と同じ感覚ですが、あちらは「母親のカセットテープをブチ壊した」で「よし!お前は死ね!!」と気持ちを一つに出来たからなあ。『エターナルズ』だと仲間内で延々とトロッコ問題をやって喧嘩している不毛さだったので、あまりノレなかった。
あと、今回既存MCU作品からの客演はないものの、エンドクレジットに至るまで知らんキャラがじゃんじゃん出ていくので、この辺りも余計に混乱させられましたね……サノスの弟とか、家宝の邪剣とか、突如聴こえる謎の諏訪部順一ボイスとかエターナルズの面々だって多かったのに整理しきれないよ……というか、諏訪部順一の正体はブレイドってマジ!?あのアクション番長の!?(違う、そうじゃない)

それこそ、壮大すぎてついていけない部分は壮大な風景を魅せることで無理矢理納得させたりとジャオ監督の十八番の使い方も中々だったので、退屈自体はしませんでしたけどね。
あと、何よりエターナルズのメンバー全員にしっかりとした背景と動機を用意して、自然と動かしていたストーリーテリング能力が凄い。マクロな視点ではついていけなくても、キャラクター個人というミクロな視点ではついていけたので、王道の物語自体はしっかり楽しめる基礎力の高さが『エターナルズ』最大の強みでしょう。
なので、以降はストーリーを追うのでなく、個々のキャラクターを語っていきます。

◇エターナルズ
・イカリス
【能力】飛行、目からビーム
【元ネタ】ギリシャ神話「イカロス」
目からビームに常時浮遊可能という能力のオーソドックスさ、事あるごとにメンバー達から「君こそ最強」「リーダーになってくれ」と言われ続けられるため、彼が主人公なんだろうなと漠然と思っていたら、突如挿し込まれる回想でビックリですよ!!
やっぱり目からビーム出すヤツにロクなヤツいねーッッッ!!

エターナルズの中に裏切り者がいる?と匂わせつつ、過去と現在を交互に映しながら一人ひとり掘り下げていく作りだったので、最初期からヒーローとして君臨していたイカリスのことはこれっぽっちも疑っていなかった。ただ、ファストスまで掘り下げられた時点で「あれ?そういえばイカリスって実は全然掘り下げてないよな……」って訝しみだし、そんな折であの最悪の回想だったんで完全にやられましたね……
掘り下げ云々抜きにしても、彼のキャラクターって結構薄いんですよね。使命には従う。敵は倒す。愛を捧げられたら受け止める。でも去る時はあっさり去る。これらは全て、彼がスーパーヒーローという記号で出来上がっているからでして、彼としての個はセレスティアルズの命題に従うだけの人形でしかない。むしろ、変革をこそ恐れていた節もある。
彼は結果的にヴィラン的なポジションに落ち着いてしまいましたが、その動機自体は「使命の規模がデカすぎるから、指示に従っていた方が楽だし、逆らうのは恐い」という切実なもので、ちょっと彼の気持ちもわからなくはないです。

なんだかんだ最後の最後で「愛故に立ち止まる」ことが出来たのが彼の自我の目覚めであり、ちょっとした救いなのでしょう。最期は神に挑む傲慢さ故に太陽に堕とされた神話のイカロスに則り、皆との対話も果たさないまま自分の意志を貫かんとして裏切った傲慢さを省みて自ら太陽に突っ込んでケジメとしました。

元ネタは蝋で固めた翼を用いて空を飛び、神に近い太陽へと挑んだ英雄・イカロス。その行動は勇気の象徴とされる一方、身の程を知らずに神に挑んだ傲慢ともされ、神に近付いた影響で蠟が溶けて落下死に至ります。劇中では太陽に突っ込むという、あまりのエクストリーム自殺っぷりに、指摘されるまで神話のイカロスをなぞったと気付かなかったのは内緒。いやだって、「太陽に堕とされる」と「太陽に突っ込む」は結構な違いじゃない!?

・セルシ
【能力】手で触れたものの物質等価変換
【元ネタ】ギリシャ神話、オデュッセイア「キルケー」(ラテン語読みでCirce)
本作は彼女が主人公に成る過程を描いた作品であり、その為なのかイカリス以上にキャラクターが弱いというか、微妙に目立たないポジションに甘んじちゃった気がしなくもない。
キンゴからカメラを向けられた時も、自分の得意技をしどろもどろに説明する姿からして、自分の能力と資質に自信が持てなかった人物ですしね。物質等価交換とか割とチート気味の能力なのに。
人類を愛する知性と慈愛を持ち合わせていたからこそ、エイジャックからリーダーとしての座を譲り受け、彼女の決断で人類は救われましたが、彼女自身がどう活躍して自我を確立していくかは『エターナルズ2』以降の宿題になった感じです。

元ネタはギリシャ神話やオデュッセウスを主人公にした叙事詩『オデュッセイア』の1エピソードに登場する魔女キルケー。アイアイエー島に住まう彼女は、男を豚に変える変換魔術を扱い、島を訪れたオデュッセウスに恋して彼を島に1年留めたものの、結局去られてしまった女性。オデュッセウスとの関係は、イカリスとの関係に近い感じがあって妙に生々しい。

・スプライト
【能力】幻覚
【元ネタ】ヨーロッパ文化圏における「妖精」(Sprite)及び「ピーター・パン」
不老設定のエターナルズにおいて、わざわざ少女を起用するってことは、彼女はここで退場なんだろうな…ってメタ読みしていたら、本当に人間になるという道を選んで退場したので「俺はなんてつまらない映画の見方しているんだろうな…」ってちょっと自己嫌悪に陥ってしまった。
でも、彼女が土壇場で裏切る理由が「いつまで経っても少女のまま」という苦悩にリンクしていたのが流石の設定の巧さでしたね。キンゴに辛辣だったりしながらも、当のキンゴは「君のお陰で僕は映画スターの道を歩めた」って真摯に伝えてくるあの関係性が好き。

名前の由来こそ「妖精」ですが、元ネタはそんな妖精ティンカーベルと共にネバーランドに住まう永遠の少年ピーター・パンっぽい。スプライトも少女ですが、どことなく少年っぽさがありますし。

・エイジャック
【能力】自他共に有効な治癒能力
【元ネタ】ギリシャ神話、イリアス「大アイアース」(ラテン語読みでAjax)及び外見はアステカ神話「ケツァルコアトル」
エターナルズの精神的支柱にしてリーダー、そして最初の犠牲者ポジション。
そのため、あまり出番はないですが、本編の主題の一つになるのは彼女の跡を継ぐことになったセルシの苦悩であり、セルシがエターナルズをまとめるのに苦労すればするほどに彼女の偉大さが浮き彫りになっていくという。
回想で描かれるサウスダコタでの彼女の暮らしはジャオ監督の『ザ・ライダー』や『ノマドランド』をも思わせる感じでした。
彼女の離脱の理由は「ただでさえ不死身の肉体でありながら、仲間にも使用可能な超回復能力」というあまりのチートっぷりのせいでしょうね。スプライトと言い、割とメタ的な理由での退場も目立つ感じではある。

元ネタは叙事詩『イリアス』などにその名を残し、トロイア戦争でアキレウスに次ぐ実力を誇った大英雄。戦場で気が狂って家畜を屠り自刃する悲劇『アイアース』の主人公でもありますが、どのみちあまりエイジャックスとの関連が見出せず。どうやらコミックスでは弟の小アイアースにあたるアレックスが登場するそうなので、そっち由来でしょうか。
身に纏う鎧はアステカ神話のケツァルコアトルモチーフで、そちらは平和の神で人類に様々な叡智を授けたため、映画としてはそちらの方が元ネタ度高そうです。

・キンゴ
【能力】手からエネルギー弾を発射
【元ネタ】メソポタミア神話「キングゥ」
手からエネルギー弾出す能力が若干イカリスと被ってるな…と一瞬思ったけど「ジャオ監督『幽☆遊☆白書』好きって言ってたし、ゼッテェー霊丸やるよな……」と察して、注目していたら、アマゾンでの戦いで完全な霊丸放っててテンション上がった。そして、あとでジャオ監督のインタビュー見たらガチで霊丸参考にしていて笑った。
吹替だと杉田ボイスで「バ~ン☆」だったけど、許されてさえいれば「霊丸!!」と叫んでいたでしょうね。『パシフィック・リム』の「ペガサス流星拳」みたいに。

吹替が杉田智和で、現在はボリウッドスターの設定の時点で面白いのは確定だったけど、案の定エターナルズの清涼剤となっていてやっぱり面白かった。ちょっと序盤の内は重苦しさがキツすぎるきらいすらあった『エターナルズ』だけど、彼とカルーンの登場で一気に華やいだので本当に貴重な存在。
一番世俗に塗れているようでいて、セレスティアルズ側の考えにも理解を示すなど、割と中立的な立場だったのはちょっとビックリでしたね。でも、割と感情の機微に疎いエターナルズの面々の中で、創作者側に立った人間だからか感受性が一番敏感だし、全員の心に寄り添おうとしたのが彼らしさでもあるかな。

ただ、まさかの最終決戦未参加には驚いた。
いや、彼の意志は尊重したくはあるし、なんだかんだ人間になったスプライトの後見人になったりの面倒見の良さ含めてかなり好きなキャラではあるけど、最終決戦に本当に来ないという一点で、僕の中での彼の扱いは『デッドプール』のサイドキックと同じになっちゃったよ……

あとキンゴってなんだと思ったらメソポタミア神話におけるキングゥなことにビックリだよ!日本人的には金吾とかのイメージだから!!
というか、どうにもアメコミの方だと本当に金吾って感じのサムライキャラで時代劇スターという設定らしいので「こういうところにこそ真田広之使えや!!」って思ってしまった。まあ時代劇自体が下火な今の状態だと、ボリウッドスター辺りの「インド限定の大スターで、別の国にいるエターナルズのみんなはよく知らない」って立ち位置が一番ちょうど良い気がしなくもないですが。
日本人のMCU入りはいずれまた別の機会を期待したいですね。個人的には星矢、ゾロに続いてマッケンユーが参戦してくれると嬉しい。

因みに伝承におけるキングゥはティアマトによって生み出された11の怪物の総大将ながら、敵対するマルドゥクに恐れを成して敵前逃亡し、ティアマトの死後に囚われて首を斬られた上に人間を生み出す為の苗床にされた…という割と良いとこ無しの神であり、あまりキンゴともティアマットとも関連性が見出せないという……強いて言えば、敵前逃亡のみ共通しますが、同じにするには元ネタが情けなさすぎる……

・ギルガメッシュ
【能力】肉体増強、怪力
【元ネタ】シュメール神話、ギルガメッシュ叙事詩「ギルガメッシュ」
マブリーがギルガメッシュってだけで反則的な面白さになるのズルッスよね?
ゼッテェー黄金の鎧も纏わず筋肉の鎧のみでドルアーガの塔制覇しそうだし、乖離剣エアを抜くの躊躇ったところを狙った衛宮士郎の一閃で腕が斬り飛ばされない。

献身的にセナの面倒を見て、彼女の暴走に対しても鉄壁の拳で対応する気は優しくて力持ちポジションとしての立場が確立されている。頼れる兄貴分であり、愛されキャラのマブリーらしさが溢れていて、この時点で◎ですよ。
セナとの関係もセルシとイカリスや、ドルイグとマッカリともちょっと違って、友誼とも恋愛とも取れる関係性なのが尊い。ここら辺もマブリーだからこそ出せる空気感な気がする。

ただ、マブリーに可愛いエプロン着せればいいって判断はあまりに安直すぎる。
本当安直。そうすりゃ面白いって本気で思ってんですか?
実際、見た瞬間噴き出しちゃったし、マブリーの扱いとして100点満点だコノヤロー!!

ジャオ監督としてもMCUとしてもマブリーの扱い方完璧だっただけに、今回で退場なのはいくらなんでも勿体なさすぎるぜ……アベンジャーズと合流して、スコットおじさんやスターロード辺りにその見た目で死ぬほどビビられて、その1分後には一緒になってガハハと笑って意気投合しているような光景を見たかった……

いまさら元ネタ解説するのもおかしいですが、元ネタは人類最古の英雄譚にその名を残す古代ウルクの王・ギルガメッシュです。Fateに慣れ親しんでいると滅茶苦茶強いけど武器頼りなイメージ強いですが、原典においては神造人間エンキドゥとひたすら殴り合ってマブダチになったり、クソデカい斧や剣に弓を軽々扱ったりのゴリラなので、マブリーのが実はイメージが近い。

・セナ
【能力】武器の生成
【元ネタ】ギリシャ神話「アテナ」(ラテン語読みでAthena→Thena)
アンジェリーナ・ジョリーが演じるだけあって、てっきり彼女がエターナルズのリーダーもしくはラスボスになるようなポジションだと思っていましたが、他メンバーと対等な存在でビックリでした。ただ、話によるとキャプテン・マーベルと同等の強さらしいので、そこら辺はアンジーに合わせた力の盛り具合ですね。というか、サノスと互角以上に殴り合うメンバーが2人も現れているインフレが凄い……
下手するともう彼女だけでいいんじゃないかな?になりかねないので、度々暴走モードに突入して仲間を殺そうとする危険極まりないバグ搭載するのはまあ妥当っちゃ妥当すぎる。これを抑えて二人でずっと暮らせるギルガメッシュの男気は凄いですし、やっぱり何かある度に幼女化するアンジーと頼れるママのマブリーの取り合わせは『最強のふたり』すぎました。
ただ、バグ修正と共にギルの死を自覚する辺りは辛いし、やっぱりセナの隣には常にギルがいてほしいなァ…と、この1作を観ただけで思えてしまうほどにベストカップルだったよね……

「Athena」からAを抜いて「Thena」と捻ってますが、元ネタは戦闘の女神アテナ。

・ドルイグ
【能力】人間のマインド・コントロール
【元ネタ】ケルト「ドルイド僧」
洗脳能力、人間への見限り、一番最初に造反……
これらの経緯から、彼こそ仙水忍ポジションだと信じて疑っていなかったが、仙水よりもリアリストでありロマンチスト、そして人間好きな賢人でごめん…ってなってしまった。
本人だってやろうと思えば全地球人洗脳した平和な楽園を創り出せそうだったのに、人間の憎悪や弱さまで無くしたら、それは人間ですらなくなってしまうという真理に辿り着けたのが彼の賢さでしょう。そして、そんな人間の愚かさをも受け入れてくれたのが彼の優しさ。
アマゾンの奥深くで極少人数と一緒に暮らすという、ドルイグの名の通りの厭世的暮らしをしていましたが、こうした暮らし選んだのも心から人間と向き合って、そして思い悩んだ末なのですから、僕も彼に心の底から敬意を払って「こんな人間でごめん。そして愛してくれてありがとう」と感謝したいのです。
そりゃ、どこか無邪気な部分のあるマッカリに心の底から好かれるわけですよ。

元ネタはケルト社会における祭司ドルイド。神話や民話に伝わる架空の人物がほとんどな中で、実在の役職がネーミング元ってのが珍しい。ケルト社会においてはドルイドの裁決が絶対だったということで、人間にとって絶対的と言える能力はここら辺がモチーフでしょうか。どっちかというと、オークの森の奥地で信者と共に暮らしていたという生活面のピックアップな気がしますが。

・ファストス
【能力】発明
【元ネタ】ギリシャ神話「へファイストス」
ドルイグがシロだと判明した直後の広島原爆で人類に絶望するファストスが映されるため「お前が仙水忍か!!」となったが、やっぱりシロだった人。MCU的にも一番ヴィラン化しやすいコースだったからね、これ。
彼はマクロとミクロの見方がバグってる人って感じですかね。メソポタミア文明に蒸気機関を導入させようとしたり、何でも作れるが故にミクロな人の営みの豊かさだけを重んじてしまう。だからこそ、ミクロだった筈の悪意が寄り集まればマクロな悪意と化して核爆発まで起こすことを予知できなかった。
そんな彼を救ったのもやはりミクロな愛であり、家族…それも血の繋がりもないパートナーと息子との繋がりで彼は満たされた。マクロ視点では「人類は愚か」でも、ミクロ視点では「大事な人がいる」。その理性が彼の仙水忍への道を留まらせたのでしょう。

ただ、多分生きていたらトニーおじさんと終始険悪だろうし、何だったらブチ殺しかねないまであるから、ファストスが表に出るのがエンドゲーム後の世界で良かった。

元ネタは炎と鍛冶の神・へファイストス。ゼウスの盾アイギス、アキレウスの盾、青銅の巨人タロス等々の神造兵器を創り上げているため、納得のネーミング。

・マッカリ
【能力】超スピード
【元ネタ】ローマ神話「マーキュリー」
『サウンド・オブ・メタル』で注目していた聾唖の女優・ローレン・リドルフが聾唖のスーパーヒーローとしてMCU入り!!いやあ、良い時代になったもんです。
なので、彼女が登用された意義を大いに買うし、とても嬉しいんだけども、エターナルズの正体がセレスティアルズが任務のために創った人造人間ってことを考えると、聾唖設定に疑問符がつくっちゃつくんですよね。人を助ける存在にハンディキャップはないに越した方がいいですから。
一応、納得いく答えを考えだすのであれば、彼女の能力である音速を超えるスピードに聴覚機能が耐えきれないからってことでしょうか。ちょっとこれも弱いというか、イマイチ釈然としない部分ではありますね。人間で聾唖のスーパーヒーローなら、何一つ疑問は浮かばないのですが。

(Twitterで見かけた素敵な解釈だと、音を超える彼女に音によるコミュニケーションは不要というものがありました。成程、それなら道理だし、彼女の領域に入っていけるドルイグとの関係に余計ニマニマしてしまいます)

マッカリ個人のキャラクターは、ローレン・リドルフのどこか自然体で無邪気な可愛らしさが出ていてとても好き。あと、終盤のイカリス戦の超スピードバトルはとても見応えがあって良いです。クイック・シルバーの後釜のバトル枠としてこれからも期待していきたい。

マッカリだと白いお酒の方が語感が近いですが、由来としてはローマ神話のマーキュリー。ギリシャ神話においてはヘルメスと同一視され、そちらは世界各地を飛び回る足の速さを活かした神々の伝令でもあります。また頭の回転も速い口八丁な泥棒の守護神でもあり、マッカリ自身も物々交換でエメラルドの石板も蒐集していましたね。
なお、エメラルドの石板は錬金術の世界においては12の奥義が書かれた銘碑とされ、現存しない伝説のシロモノ。著者は錬金術師の祖であるヘルメス・トリスメギストス、即ちヘルメスその人とも言われます。

◆ディヴィアンツ
・クロ
【能力】能力の吸収
【元ネタ】ギリシャ神話「クロノス」
本作のヴィランの一人で、唯一ディヴィアンツで知性を獲得したリーダー格…ですが、ちょっと扱いが良いとは言い難いやも。最終決戦で「おいすー」と島に上陸した画が「お前じゃねェ!」ってなったし、そのままセナが記憶を取り戻す通過儀礼としての役割でしかなかった印象。
本当エターナルズのやることが多すぎて、それに合わせて彼も頑張って脅威レベルを底上げしていたけど、最終決戦においては何もかもが中途半端だったとしか……

元ネタは時間神じゃなくてティターンの長の方のクロノス。神々を支配して黄金時代を築き上げるも、ゼウスに討たれた存在。
ローマ神話におけるサトゥルヌスであり、かの有名な『我が子を食らうサトゥルヌス』からのイメージでエターナルズの能力を食らう力があるんじゃないかと。

◆セレスティアルズ
・アリシェム・ザ・ジャッジ
ゼッテェーロクでもないだろうなって思ったら案の定ロクでもなかった超越存在者。
それでも、まだ彼は種として忠実なだけだし、エターナルズが盛大に離反してもまだ猶予与えたりしてるからマシっちゃマシとも言える。でも、ディヴィアンツとかいうバグを平然と混入させてる辺り、やっぱり最悪。
まあそれでも、種としての理念すら忘却して己の目的の為に自分勝手に突き進んでいたエゴよりは全然マシ。というより、いかにエゴがセレスティアルズの中で異端だったかってことよ……
あまりにスケールがデカすぎるので、もうヴィランとかの枠にも収まらないと思うんですが、コイツ次回以降どうするんでしょうね?

◇その他
・エロス/スターフォックス
【元ネタ】ギリシャ神話「エロース」
サノスの弟とかいう肩書だけで「なんかスゲェー!」ってわかる!!同時に「ロクでもねェー!!」って思う気持ちもある!!心がふたつある~~~
原作では惑星タイタンに移住したエターナルズの子孫とのことなんで、根っこは同じなんだろうか。

元ネタは何気にカオス、ガイア、タルタロスと並ぶ原初神の一柱で、卓越した力を持つ強大な神。エロスなのに。

・デイン・ウィットマン
後半で複雑な家系だとわかって、スーパーヒーロー化するといっても、今回盛り沢山すぎて「ふーん、あっそう」としか思えないのが酷い。原作では魔法の剣エボニー・ブレードを振るって戦うブラック・ナイトと呼ばれるヒーローらしいですが、かなりマイナー気味のヒーローらしく微塵も知らなかった……
剣戟アクションのヒーローは凄い興味ありますけどね。ただ、やっぱり彼に声をかけたというハルマゲ番長ブレイドの方が気になって仕方ないんだ。