平野レミゼラブル

ウルフズ・コールの平野レミゼラブルのネタバレレビュー・内容・結末

ウルフズ・コール(2019年製作の映画)
3.2

このレビューはネタバレを含みます

【アガる映画を期待している者、全ての希望を捨てよ】
潜水艦映画にハズレなし!!
…という言葉がありながらも、僕はにわか映画ファンのため全然潜水艦映画を履修していないのですが、去年観た『ハンターキラー』は大当たり!仲間との絆、海だけでなく陸でも行われる激闘、さっきまで敵だった男と交わされる熱い友情、そして緊迫にしてド迫力の海戦!!滅茶苦茶“アガる”要素だけで構築されていて、もうこれ毎年金曜ロードショーで放映してほしいくらいに熱くて面白い傑作でした。

で、フランス産潜水艦映画たる本作。これもまた、世界滅亡にまで繋がる壮大なスケールに熱い海戦、頼れる船長…といったようなハンターキラーみに溢れていて、「コイツも大当たりだぜェ~~~!!」と喜び、勇んで、観に行ったのですが……


ああ…これ…『ハンターキラー』じゃなくて『PMC:ザ・バンカー』パターンなのねん……
ええとですね、決して面白くないって言いたいワケじゃないんだ。むしろクオリティは一貫して高い方なのよ。ただ、こちらが求めていたものと真逆の方向性のモノをお出しされたという「お…思ってたのと違う…!」枠の映画だったのです。
そして『PMC:ザ・バンカー』の自分の感想読み返したらこっちでも『ハンターキラー』を勝手に期待して「お…思ってたのと違う!」って抜かしてたことに笑う。レミゼくん、いい加減学ぼう!!


物語開始直後から一触即発の戦いが始まるのが良いですね。
本作の主人公は船長ではなく、「黄金の耳」を持つというソナー師の“靴下”くんことシャンテレッドなので、音で魅せてくるのが迫力あって良いです。様々な雑音やら食堂で朝から見てるポルノの音混じりに響く「狼の歌」のような謎の異音。どこから敵がやってくるのか、そもそも敵なんているのか、音の判別で乗員の生死まで左右するドキドキの展開。鳴り響く音と共に自分の心臓の鼓動すら高鳴り、緊迫感が高まります。
画的にも空中から投下されて展開するソナーのメカニックに、浮上した潜水艦上から艦長がRPGでヘリを落とす迫力の展開が少年心を刺激し滅茶苦茶アゲてきます。
この辺りの最初の戦闘で盛り上げる感じは去年話題となり、今年も拡大版が上映されたロシア産戦車映画『T-34』めいてますね。

最初の戦闘後、場面は陸に上がり戦後の反省会に。シャンテレッドは結構真面目なのか、ソナーでの判断を間違え仲間を窮地に追い込んでしまった自責の念と、「狼の歌」の違和感から原因を突き止めようと推理を始めます。
その為の情報収集として本屋で書籍を取り寄せようとするのですが、その際に知り合った書店員を秒で抱いてるのは、もうおフランスだなァとしか(笑)
機密情報を閲覧するために、上司のパソコンのタップ音から「黄金の耳」で暗証番号を割り出してクラッキング(直接)する等の行動も「マジかよ!」って感じに笑います。この辺りの靴下くんは暴走気味だけど、勉強熱心なんだなと納得できたし、面白描写込みで楽しんで観ていました。

しかしその後、冒頭で出た頼れる艦長と共に行う重要任務の試験に受かり、いざ乗船!というところで大麻反応…えっ……I勢谷You介……?
艦長ジョークかなんかかなと思ったら、ガチで靴下くんは大麻をキメていたらしく、それによってマジでメンバーから外されたことで「ちょっと待てよ!!」となってしまう。ええと、靴下くん?これまで君は暴走しつつも頑張っていたのに、なんでこんなつまらないことで降ろされているのです!?
特に彼が大麻をやっている描写もなかったので唐突感も否めません。これはなんか僕が見落としているのかな……

とまあ、こちらが靴下くんに失望している内にあれよあれよと状況は動き、あっという間に第三次世界大戦勃発の危機へ。その間、靴下くんは何故か最高指令室に潜り込んだ上に、その重要事態になし崩し的に関わることになるのですが、大麻降板から大分無理くりに繋げていったな……という感じではありますね。
さらに、なんだかんだで味方の艦長同士で戦い合う羽目になるという虚しすぎる展開にまで発展。思えばこの辺りから「あっこれハンターキラーじゃないな…PMCだな……」と覚悟を完了しだしましたが、時既に遅し。
もうここまで来ると、いくら黄金の耳を持っているとはいえ靴下くん一人でどうにかできる問題ですらなくなっているため、ますますカタルシスから遠のいていきます。
というか、『トップガン』のおトムさんみたいな挫折からの再起って流れですらなく、靴下くんは極限状態でメンタルをやられて逃げ出したりするので、こちらとしては靴下くんを一体どうしたいのかという疑念すら湧いてくるという。

一応最後の最後でソナー師としての活躍をしたり、世界滅亡を止めるための鍵にはなりますが、冒頭と比べると活躍の幅が狭く、作戦を成功させても頼れる仲間は全員死亡。おまけに潜水艦脱出時の影響で「黄金の耳」すら失われたかのような描写もあり、一体何が残ったのだろうか……というあまりに虚しすぎるラスト……
うーん、これはこれでアリな人はアリだろうけど、やっぱり靴下くんが捻りなく活躍する単純明快な潜水艦アクションが観たかった気持ちが強いなァ~~~。