ヨーク

T-34 レジェンド・オブ・ウォーのヨークのレビュー・感想・評価

4.2
ハラショー! めっちゃ面白かった。もう娯楽映画としては満点上げたくなる出来栄えです。特に俺は軍事オタクではないし戦車だってごく一般的な男の子レベルで好きなだけだがそれでもグイグイと作品の中に引っ張り込まれるパワーがあった。もうのっけからテンションが高い! 映画が始まってすぐで誰が主人公で誰が敵役なのかとか何にも分からない状況だけど一台の炊事車が走っていると眼前にドイツ軍の戦車が登場してあぁ敵役ドイツ軍の強さを見せるためにあの炊事車は犠牲になるのだな…と思ったら炊事車に乗っている男が運転手に向かって逃げずにそのままドイツの戦車に突っ込めと言う。そしてそのまま敵戦車の眼前を突っ切って追撃の砲弾のタイミングまで読み切って見事に逃げおおせてしまうのだ。てめぇニュータイプかよ!
そのニュータイプもかくやという男が本作の主人公のニコライであった。ニコライはその腕と度胸を買われたのか、そのまま上官から戦車乗りが足りないからお前今日から戦車長な、と無茶振りにも程があるだろという人事を受けるが快諾。まるで少年漫画の主人公のように物分かりがいい。そして戦車長になったニコライは歩兵の一個小隊が随伴するのみのT-34-76一両でドイツ軍の戦車部隊を迎え撃つというこれまた無茶な作戦を任されるのだ。
その時点で映画が始まって10分経たないくらい。なんかもうすでに映画のクライマックス感が漂う熱さなのだがT2で例えるとまだジョン・コナーがシュワから逃げてるくらいでBTTFで例えればまだマーティがドクに会ってさえいないくらいだろうか。そんな序盤もいいところのシーンなのだが、とにかくこの序盤の戦闘シーンだけでもテンション爆上がりなのである。戦車の格好良さをこれでもかと見せてくれる。単に機動兵器としての戦車の格好良さだけではなく戦車乗りたちのチームワークの素晴らしさも含めて戦車戦の良さが詰め込まれまくっているのだ。
この冒頭の戦闘シーンは映画全体の中で見るとニコライの戦車乗りとしての腕前を客に印象深く見せつけるためのものなのだが、もうここで映画終わってもいいんじゃないかくらいのカタルシスはあった。と、もうベタ褒めな序盤の戦闘シーンなのだが実はこの辺のシーンは予告編ではほとんど使われていない。本作のメインのお話はこの序盤の戦闘でドイツ軍を翻弄しながらも捕虜となってしまった4人の戦車乗りがドイツの捕虜収容所に送られ、そこから脱出するというものなのである。戦車要素に加えて捕虜収容所からの脱走という抑圧からの解放も大きなテーマなのでこんなもん男子のハートに刺さらないわけがないのだ。実際に淡々と脱出のための準備を進めていくシーンとかはとてもワクワクする。ちょっと取ってつけたような恋愛要素も入るのだがそれも鼻につくような感じはせずにむしろそのベタさが素朴でいい感じに見えてしまう。基本的に本作は娯楽映画の体を崩さない王道的な姿勢なのでベタであることがむしろ真摯さであるようにも思えるのだ。
そしていざ脱出のための作戦が決行されたときの爽快感はこの上ない。戦車に乗ったむさくるしい男どもがヒロインを迎えに行くシーンの気持ちよさは素晴らしかったですね。このシーンは若き日の(ここ大事)宮崎駿が観たら羨ま死してしまうのではなかろうか。貴方が悪役1号でやりたかったのってこういうシーンですよね? とニヤニヤしてしまう。
その後の脱出劇とクライマックスになる未明の市街戦とかもうとにかく最高にアガる要素しかない映画でしたね。こういう熱いシーンがあったんだ! と言葉で説明してしまうと陳腐化してしまいそうなので中盤以降のことは何も書きたくないほどです。しかし背中合わせで対面してしまった戦車同士が一秒でも早く砲塔を回して狙いを付けようとするシーンは本作でも屈指の名シーンだったとは言っておきます。
散々書いたように本作は娯楽戦争映画としてはもう素晴らしい出来なのですが、そこかしこに戦争の陰惨さや哀感のようなものもあってその辺のアクセントも凄く良かったとも記しておきます。脱出中の戦車乗り4人が「これで俺たちは自由だ!」と叫んだりするけどその後の歴史を知っている身としてはソ連はむしろ戦後の方が辛いかもしれんぞ、とかそもそもソ連兵が俺たちは自由だとか皮肉交じりのギャグかよ、とも思ってしまう。ニコライと対立するドイツ軍将校のイェーガーもまた素晴らしい悪役ぶりを発揮しながらも戦争の中で部下を失い、前線のことなど考えないナチスの上層部に嫌気が差している感じも出ていて非常にいいキャラクターになっている。そういう、基本的に空しいものである戦争の中で、ただ自らが兵士として戦わざるを得ない状況下でニコライとイェーガーは奇妙な共感さえ感じているように見えるのがまた素晴らしいのですよ。
ただの景気のいいドンパチ映画として何の文句もない素晴らしい出来なんだけど、エンドロールの前に「独ソ戦で戦った全ての戦車兵に捧げる」と字幕が出ると不意に涙腺が刺激されてしまうくらいには戦争の哀惜を背負った映画でもあるのでした。
いや本当に素晴らしい映画だったな。戦争とか戦車とかモロに男の子趣味だけれど男同士の戦友的な友情もしっかりと描かれるので腐ったお姉さま方にも十分ウケるのではないかなとも思いますね。とてもいい戦争映画でした。
ハラショー!
ヨーク

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