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死体語りのhorahukiのレビュー・感想・評価

死体語り(2018年製作の映画)
3.7
この世とあの世の夫婦喧嘩!

地元のギャングをうまく騙して妻の浮気相手を殺して貰おうとしたら、ついでに妻まで殺されちゃった…😱「まぁえっか」と思ってたらあの世から妻がネチッこい嫌がらせをして来て、最終的にこの世とあの世で子どもの親権争いに発展するブラジル産離婚ホラー。

原題を直訳すると「死体は語らない」という真逆の意味になる『ゼログラビティ』状態が笑えるシッチェス2019。去年のシッチェスでこれだけ劇場に行けなかったんだけど、なかなか面白くて相変わらずの層の厚さが嬉しい!

主人公は遺体安置所で働いてるんだけど、死体と話すことができる能力者。麻薬ギャングの抗争が頻発する治安の悪い地域柄、運ばれてくるのは何かしらの犠牲者が多く、能力を使って身元不明とならないよう、死体に協力することもある。その死体から得た情報を自己の利益のため(妻の浮気相手殺し)に利用してしまったことで歯車が狂いだす。

日中は眠り夕方から仕事に出るという職業柄、家庭からは遠ざってしまい、金もなくツケでひとり酒を飲む日々。そして彼が家に持ち帰るのは「死」の臭い。

作劇上、死体が話してるとしか思えないところは確かにあるのだけど、原題どおり死体は話しておらず、遺体安置所で一晩中死体と過ごさならければならない孤独を長年続けるうちに彼の心が作り出した幻想なのでしょう。「死」が身近にありすぎるためか、地域柄大量生産される「死」に生かされてるという違和感からか、野心も何もなく行ける屍のような日々を送る自分に「役割」を与え、心を平常に繋ぎ止めるために生み出されたものなのかもしれない。

神がいれば悪魔もいる。そんな内面的善悪の戦いと冒涜された「死」からの逃げることのできない罰。そして罪悪感に苛まれ、今まで一切顧みなかったものを突如背負いこむことに対する責任の重圧。死んだ妻からのハッチャケた攻撃の数々が彼の感情の写し鏡として機能し、息子の誕生日プレゼントに摘出した脊柱渡したり、マリオバーヴァ『知りすぎた少女』からの影響を感じる張り巡らされた糸といった彼のとち狂った行動にも現れてくる。そういったものを全て包み込み辿りつくべきところに辿り着く「行進」のセンスも良かった。

というかサッカーチームのサポーター同士が乱闘して死人が出てるのが冒頭で描かれるんだけど、流石ブラジルやなって思った😅怖すぎる…。
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