白瀬青

返校 言葉が消えた日の白瀬青のネタバレレビュー・内容・結末

返校 言葉が消えた日(2019年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

植民地支配から解放されたものの、新しい政府の指導により表現弾圧が吹き荒れていた1962年台湾。
女子高生のルイシンは、繰り返し悪夢を見る。夜の校舎に閉じ込められて弾圧の魔物に追いかけられる夢だ。あるいは裏切り者と指差される夢だ。禁書の読書会メンバーである後輩の少年の協力で魔物の粛正が吹き荒れる夜の校舎を逃げ惑う。

Netflixドラマ版を見てから見る人が多いと思うのでネタバレをすると、Netflix版「返校」では学校の幽霊として登場するルイシンの物語だ。
ルイシン目線で語られる読書の自由の弾圧はドラマ版の非ではない残酷さで、その渦中で犯した自分の罪が怪物になり、繰り返し繰り返し夜の校舎で断罪される。文学性と批判性、人間怖いと呪い怖いが互いに混ざり合いブーストされる恐怖はどちらかと言えばエモい社会派ドラマであったNetflix版の比ではない。
ルイシン自身も読書会を推進する教師に恋をして過ちを犯す。一党独裁の政治に自由が弾圧される世界では、誰もが被害者だと同時に加害者でもある心の怖さもある。

印象的な小道具の中には、台湾の伝統芸能であり、後に大胆な現代アレンジで若者に人気を博し、日本でもサンダーボルトファンタジーが知られている布袋劇もある。
読書の自由が脅かされる血の粛正のホラーであり、出てくるタイトルは政治批判にかかわるものが多いが、オタクエンターテイメントも無関係ではない。
何よりこの映画の原作はゲームだ。自国の暗黒史をクオリティの高いホラーゲームにして内外の若者に人気を博していることそのものが勝ち得た勝利と思える。

最後にホラーとしての感想を一言。夜の教室、不穏な漢字落書きやお札ベタ貼りは東アジア民に刺さりすぎるんだ……。
白瀬青

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