平野レミゼラブル

ラーヤと龍の王国の平野レミゼラブルのネタバレレビュー・内容・結末

ラーヤと龍の王国(2020年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

【分断が生む世界の終わりのその先へ――】
世界の終わりに剣と剣とをぶつけ合う因縁の少女2人……
…美しい。これ以上の芸術作品は存在し得ないでしょう……
いや、作品内容としてはそこを乗り越えて皆で手を取り合ってわかり合おう!ってところにあるんだけどさあ!!アレです。夕日をバックに河原で殴り合う光景が美しく見えるアレです。実際あの剣戟、和解の為に必要な通過儀礼の一種だと思うのだよね。

それはともかく、ディズニーオリジナル3Dアニメを劇場で観るのは久々な気がします。
というのも、コロナ禍の煽りをモロに受けて実写『ムーラン』や『ソウルフル・ワールド』と言った映画は軒並み配信限定になっている現状がデカい。散々劇場で予告流しといてこの不義理はどうなんだって気持ちはあるものの、まあそれは本当に本作と関係ないので置いときましょう。
そもそも本作は劇場でやってくれただけ有り難いし、実際観れて良かった!ってくらいに楽しい秀作だったのですから!!


舞台は、かつて龍が守る大国であったクマンドラ。龍達は人々の悪意から生まれるドルーンと呼ばれる煙状の魔物を封印する為に、我が身を犠牲に「龍の石」となって人々を守ります。
しかし、人々は以後500年に渡ってこの「龍の石」を巡って争い、クマンドラは5つの国へと分断されます。主人公ラーヤの父であり龍の石の守護者であるベンジャはこの状況を憂い、5大国が争うことなく協力する夢を実現させる為に講和会議の開催に尽力。
その席で、大国の一つファング首長の娘・ナマーリはラーヤと龍の話で意気投合して仲良くなりますが、龍の石をラーヤに見せてもらうなり石を独占しようと彼女を裏切ります。各国が再び争う中で龍の石は割れドルーンの復活が解けてしまう。ベンジャを含む大勢の人々がドルーンに襲われ石像となり、さらに5つに割れた龍の石もドサクサで各国首脳に持ち逃げされてしまいます。
生き延びたラーヤは、龍の加護がなくなったことで水が枯れ、ドルーンが跋扈することになった荒廃した世界で再び龍の石を集めて復元する旅に出かけることに。そして、その旅の中でファングの戦士として成長した宿敵ナマーリとも再びあい見えることになるが…


基本的な本作の流れは、崩壊してしまった世界をラーヤが未知の生物を乗り回して進み、行く先々に待ち受けるトラップの数々を掻い潜り龍の石を集め、そして異国情緒豊かな各国で仲間を増やしていく!って感じ。単純明快に面白いアドベンチャー作品です。
国に入る時にドーンと国名がポップしたり、ところどころに乗り物であるトゥクトゥク(デカいアルマジロ)では侵入できない道があったりするのはどこかゲーム的でもありますね。

各国の美術もディズニー十八番の美麗作画で素晴らしい!特に龍の象徴であり、ドルーンが近寄らない退魔の加護もある水の表現はやはり群を抜いています。
クマンドラのモチーフとなっている国がベトナムやタイと言った東南アジア風味なのも物珍しくて良いです。うっそうとした熱帯雨林系の森林に、エキゾチックな屋台の広がる街並みの美しさってのは、なんか冒険している感覚をより強めてくれるから不思議。旅番組見ても、ヨーロッパ以上に台湾の雑多な市場街やアンコールワットとか行きたくなるもんなァ〜。
でも、冒険している感覚が強い一番の理由はラーヤが身につけている編み笠かも知れぬ。日本人のDNA的に、テンガロンハットより編み笠を被っている方が行きずりの旅人のイメージが強いのでござるよ。

しかし、それより何より一番印象的なのは、ラーヤの装備品であるガリアンソード(蛇腹剣)ね!!
こうジャラジャラっと伸ばして戦う外連味はもちろんのこと、遠くにぶっ刺してワイヤーアクションみたいな移動も見せて大活躍してくれるってのが最高!!!ガリアンソードアクションに関しては、ディズニーアニメとかそういう括りじゃなくて、少年バトル漫画原作のアニメを観ているような心地がしましたヨ。


そんなユニークな世界観に合う形で、各国で加わる仲間も全員個性豊かで楽しい。どこかアクションRPGめいたゲームライクな世界観とは言いましたが、仲間はそういうゲームにありがちな剣士とか魔道士からちょっと外した意外性に溢れています。
というより、親を失ったためスリで生計を立てている自立心が強すぎる赤ん坊と、その相棒の3匹の猿ってのが突出してトガってる感じですかね(笑)他2名も家族を失いながらも背伸びして船長業務をこなす少年や、一見怖そうで悪ぶってるけど実は心優しい蛮族戦士の生き残りで、ラーヤ同様に家族を失った者達の寄り合いとしても結構しみじみさせてくれます。

そして、パーティーに一番欠かせないのが龍の生き残りのシスー。
神聖で超常的な存在として伝説では語られていますが、いざ目覚めたらロケットトークで捲し立てたり、ラーヤに対して超フランクではしゃぎ回るなど、かなり俗物で愉快なキャラをしています。
ディズニー映画に高確率でいるコメディリリーフ的超常存在というか、『アラジン』のジーニーをイメージしてくれれば良いです。むしろほぼジーニーだな……吹き替えの声はどことなく『ファインディング・ニモ』のドリーを思わせるんで、室井滋さんかと思ったら高乃麗さんでした。
その明るさにかなり救われる部分はありますが、彼女にもまたクマンドラ時代に他の兄弟が犠牲になり1匹だけ生き残った意味を今も考え続けるシリアスな側面があります。彼女も種族は違えど、ラーヤ達同様に哀しみを胸に抱いている同志なんですね。
親友に裏切られたことで人間不信に陥っていたラーヤはシスーを通して、他の仲間達と擬似家族として関係を形成していくのがとても綺麗。

クマンドラが5つの国に分かれたという設定からして、本作が現在世界が抱えている「分断」という問題に切り込んでいるのは明らかです。ベンジャは、国を一つにまとめるのに必要なのは「美味い飯を一緒に食べることだ」と語り、民族の講和を目指しますが、結局「龍の石」という宝を前にした時、人々は再び争ってしまうわけです。
ラーヤ達は民族という括りではなく、「家族を失い哀しむ個人」同士としてなら繋がれると示したことになりますが、ベンジャの願いを叶えるにはもう一歩前に進む必要があります。

それは、敵対し恨みを今も抱いているナマーリをも受け入れること。
憎しみは簡単に晴れることはなく、人を疑うことにも繋がります。実際世界の終わりは、こうした負の感情のぶつけ合いによって始まってしまう。
しかし、世界の終わりを乗り越えてこそ迎えられるカタルシスというものはある。ラーヤとナマーリの剣戟は単純に殺陣として見応えがありますが、その先のカタルシスに繋げる為に必要な過程でもあったのです。
そして、剣戟のその先に待ち受けていた展開は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』をも思わせる絆の結実で感動的でした。


実態不明の脅威であるドルーンは現実世界でのコロナウイルスをも思わせ、そしてそんな中でもヘイトクライムを始めとした人々の憎しみと分断が続いていることを考えると、今一番必要なことを詰め込んだ作品とも言えるでしょう。その為、閉塞した社会を塗り替える希望を込めたエンディングは本作で最も必要なものでした。
なので、この終わり方に関しては物凄く支持したくはあるのですが、ちょっと理想論が強すぎないかって想いはいくらか残ってしまいましたかね……いかんせん今まで岩になっていた他の人達にはラーヤ一行のような過程が皆無なんでね、こう上手く納得してくれるかなァって疑念はどうしても抱いてしまう。
そこを乗り越えて信じようって話を散々してきたワケではありますが、まあラーヤ達が出会った人達も綺麗な人ばかりでもなかったからね……作中内でも理想論になってしまいそうな部分を強引にまとめた感じは少なからずあります。

ただトータルで行けば綺麗な着地ではあり、これまで見せてもらった映像美の素晴らしさを思えば些細な問題ですよ。
逆にこのエンディング以外だったら、調和は取れてませんからね。社会的メッセージも備えつつ、何よりエンタメとして単純に面白い快作として自信を持ってオススメできます!

私が観たのはイオンシネマの土曜ってこともあって、親子連れが結構見られたので徐々に客足は伸びていると思いたいですね。
『ナタ転生』を観た時も思ったけれど、僕は西洋ファンタジーより東洋ファンタジーの方が好みに近いんで、この路線は今後も続いて欲しいですな。

超絶オススメ!!!