B5版

戦争と女の顔のB5版のネタバレレビュー・内容・結末

戦争と女の顔(2019年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

語られなかった女達の戦争。
戦場を離れてからも生活に覆い被さる陰について、女側から紐解いた著書「戦争は女の顔をしていない」を原案にした本作。

カオスだと思う。
作中起きることも、再会からの二人の女たちの感情も。
戦中の混沌は地続きに、ハッキリ目に見える形から逃れているだけでずっと身体と同居しているようだ。
PTSDを患う主人公はいつも囁くように喋り、そもそもの言葉はすくなく内気な佇まいだが、ずっと叫び出したいような、
絶望の境地に立っているような面持ちである。
一方でその友人マーシャも一見なんでもない顔をしながら喪失による自傷と他傷を繰り返し暗い影を抱えている。

二人の女の間には愛、憎悪、悲しみ、連帯感、未分化のままラベリングが追いつかないくらいの感情が怒涛のように流れている。
寛容な母親のように、時には嫉妬心の強い恋人のように主人公はマーシャに与え、
真綿で首を絞めるように、どこまでも深く付き合える同志のように、マーシャは主人公に依存していく。
両者の関係は常に不均衡なようで実際は耐えきれない喪失をぶつける相手は同じ。
どう発露するか、その性格の違いだけな気もする。

今作特に特徴的に感じる、目の覚めるような緑と赤。
いつでも画面を覆うその印象的な2色はソ連の軍服を思わせる。心象風景も目の前の現実も常に戦場に寄って囚われていることのイメージなのだろう。
また、女達が絶望の最中で破顔するシーンも今作この上なく印象深い。
ゆっくり口角を持ち上げ、歯を見せる行為は笑うという動作で間違いないけれども、言葉から受けるプラスの意味合いなどは微塵も見られない。
唐突で完璧な笑みが女の内面で起きたどんな心境を表すのかわからない、
わからないけれどそこに在る感情を知るのが恐ろしいと感じた。

この作品は登場人物への理解を拒むつくりになっているようにおもえ、しかし戦争を経た人間の狂気と悲哀は十二分に描かれている。
起きたことに対して善悪をくっきり突きつけて良いと思わせることも不可能なばかりで、どのシーンも途方に暮れる。
ただただこれが戦争の怖さだと思い知る。
戦争が人を不可逆的に捻じ曲げたのだ。

枯れない悲鳴は、鳴り続けた末に共鳴する。
いない子供に向かって微笑み、空の器を満たすことが希望だと信じ癒しを渇望する。例えその過程でいくら心の生傷が絶えずとも。
このあと何がどうなろうと、この女達は二人で今後も寄り添い生活していくだろう、という予感を感じながら物語は閉じる。
空虚な一人と一人が、どうか正気への糸口を二人で見つけられるようにと祈るばかり。
B5版

B5版