B5版

聖なる犯罪者のB5版のネタバレレビュー・内容・結末

聖なる犯罪者(2019年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされた本作はポーランド映画。

なりすましの実話系映画はたくさんありますが、今作は犯罪者が聖職者になりすます大胆なクラスチェンジをした少年の話を元にしているらしい。

主人公の少年の面影が強い風貌を見てなお纏った司祭服にころりと町の人は騙されていく序盤。
司祭様としてふるまううち、服に着られたような出立ちだったはじめの印象が薄くなり、いよいよ本物の様な顔つきになる、表情の変化が顕著な中盤。
スタンフォード監獄実験の真偽は色々囁かれてますが、制服や呼び名に宿る人格は確かにあるなと思ったり。

この作品は神父を騙った不良少年の行末と、一つの村で起きた不幸な事件の結末、2つの物語を軸に展開していく。
この縦軸と横軸の塩梅が面白い。
特に、中盤の演技も胴に入ってきた主人公は、「新米神父!権力との抗争奮闘記」と銘打ちたくなるし、多様なベクトルに引っ張られながらどんどん話に惹き込まれる。
そして物語は、嘘が露呈したことにより駆け上がるように展開が進む。

痛みを共有し住人達に歓迎されていく中で過去の事件の謎を紐解いていく主人公。
暗い記憶が未だ息づいた村と、挫いた過去を持つ少年の出逢いは互いに僥倖であった。
村人は聖書を一辺倒に暗示じる本物の聖人よりも、自らの言語に実直に編み直した言葉で語りかけてくる不実の聖者を崇めた。
元々恵まれた環境の人間が伝える高尚な教えよりも膿むほどの傷を分かち合える愚者の共感の方に救われるというのは心当たりのある話で。
借り物の名前を騙る主人公はたしかに言い逃れできない悪人である。
しかし脛に傷のある人間にしか分からない険しい世に蔓延る不条理というものもある。

過去がどうであれ大事なのは今…
なるほど感動作だと嘆息して終わろうとしたところでラストでさらなる驚きを残し、物語はぶつりと途絶えるようにあっけなく終了する。
つい先日まで聖職者として祭壇に立っていた少年は、暴力を罪悪感なくふるい、周りを巧みに誘導しながら殺した人間の兄貴のいる建物に火をつけて逃走する。
善人にも悪人にも成り得る器の卵。
はたしてこれから何処にいくのだろう。
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